はじめの一歩

□彼女の彼氏を紹介します
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「お願い!こんなコト板垣にしか頼めないの」

そう言って、佳織さんはボクに必死でお願いしてきた。

「別にいいですけどね。何でボクなんですか?佳織さん男性の知り合いならたくさんいるじゃないですか。先輩とか…」

「幕之内はだめ!あいつがよく知らない女の子達とまともに喋れると思う?」

「ああ、それは無理ですかね」

「それに久美の事もあるし…」

確かに。それを聞くと複雑な心境になる。

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだってバレてるし、鷹村さんは何しでかすかわからないし、青木さんはトミ子さんが…」

「梅沢さんは?」

「原稿書くのに忙しいから…っていうか梅沢じゃだめなの。ボクサーって事になってるから」

「事になってるって、本当にボクサーじゃないですか」

宮田さんは。




鴨川ジムでの練習を終え、外に出ると、珍しいお客がいた。

木村さんの妹さんで、現在も鴨川ジムの練習生だけど、最近はたまにしか顔を出さないので、ボクも久しぶりに会った。

練習に来たって感じじゃなかったから、てっきり木村さんか先輩に用があるんだと思ったのに、佳織さんはボクを見つけるなり駆け寄って来て、言った。



「頼みたい事があるの」


その頼みたい事とは、ボクに佳織さんの彼氏のフリをして欲しいというもの。

一体何故?
理由を聞いたら、いつも強引に誘われる合コンを断る為に、同僚に恋人を紹介しないといけないんだとか。

ボクは、佳織さんは宮田さんと付き合ってるんだと思っていた。

でも、木村さんに聞いた話によると、かなり微妙な関係らしい。
兄である木村さんも心配する程。

先輩と久美さんといい、何でこうハッキリしないカップルが多いんだろう。

まぁ恋人じゃないにしても、そのポジションに一番近いであろう宮田さんに頼めばいいのに。
そう言うと、佳織さんはとても真剣に、「宮田はそんなお願い絶対聞いてくれない」と答えた。
よくわからないけど、佳織さんが言うなら、そういうもんなのかな…?


「板垣なら女の子慣れてるし、口も達者だし…」

「まぁそれはそうですけど」

「その日は私がゴハン奢るし。一食浮くよ?それで足りなければ他の条件でも…」

「あ、そうだ」

ボクは前々から思っていた事を口にしてみた。

「佳織さん、ボクとスパーしてくれませんか?」

「…え?」

「ボクまだ一度もやった事無いんですよねぇ、佳織さんと。以前は宮田さんとスパーしてた事あるんでしょ?興味あるなぁ」

「ちょ、ちょっと待ってよ…それは宮田がプロデビューする前の話で…いくら何でももう無理だって!ましてや板垣の相手なんか…っ」

「いいじゃないですか。ボクだって何も本気でやったりしませんよ。先輩のライバルである宮田さんが、どんな風にスパーしてたのかなって、気になるんですよ」

ね?…と、今度はこちらがお願いの眼差しを向けると、佳織さんは少し躊躇しながらも、首を縦に振ってくれた。

「よし。じゃあ交渉成立という事で。よろしくお願いします。ボクの彼女の佳織さん?」

そう言って手を差し出すと、佳織さんはその手を取って握手をしてくれた。

「よろしく、板垣」






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