はじめの一歩

□再会
1ページ/1ページ





拍手が鳴り止まない会場。

佳織の隣では、梅沢が泣きながら手を叩いていた。



「幕之内が…負けた」


公式戦での初黒星。


宙を舞ったタオル。
同時に倒れた一歩。

それらが目に焼き付いて佳織は暫く動けなかった。






「…!」



その瞳が、動きを取り戻した。



まだ泣いている元同級生達をかい潜り、エレベーターに乗って、出口へと向かう。


そこで、先程目にした後ろ姿を見つけた。













「…宮田!」



久しぶりに呼ぶその名前。

ポケットに手を入れたまま、彼はこちらを振り返った。



「よォ」

「…観に来てたんだ」

「まぁね」

「やっぱり気になるよね。ライバルが日本チャンピオンになるかどうかの試合だもん」

「負けたけどな」


約一年ぶりの会話とは思えないそのやり取り。


「心配?」

「…っ」

佳織のその一言に、反応を示す宮田。

「…いや」

目線を外し、否定の言葉を述べる。

「余計なお世話だろ」

僅かに口角を引き上げながら。

「宮田…」

佳織は複雑そうな笑みを浮かべた。

「行かなくていいのか?」

「え…?」

「控室」

「…うん。ダメージも気になるし、様子見て来る」

本当は宮田自身が様子を知りたいのだろうと、佳織は素直に頷いた。

後で、報告してあげよう。




そう、“ 後で ”。




「じゃあね」

「ああ」

佳織は一歩の控室へと向かう為、踵を返す。





「佳織」





改めて名を呼ばれ、佳織は足を止めた。



宮田は佳織に背を向けたまま、呟くように言った。






「ただいま」









佳織は振り返らなかった。

同じように背を向けたまま、嬉しそうに告げる。






「おかえり」











 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ