はじめの一歩
□特別感
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「こんにちはー!」
明るい声と共に入って来たのは、佳織だった。
相変わらずこのジムにはそぐわないその姿。
だけど佳織は気にもせず、準備運動を開始した。
「宮田」
そして、オレに目をつける。
「スパーリングやろう?」
「またかよ…」
「だって宮田しか相手してくれないんだもん。皆私なんかとスパーしたくないんだって」
「当たり前だろ」
ジムの奴らの気持ちはわかるぜ。
いくらヘッドギアをしていても、女を殴るのは気が引ける。
大人よりも、佳織と同い年のオレが相手をしてやるのが適任だと、一度スパーを任されて以来、佳織の相手はずっとオレがしている。
もちろん本気で殴ったりしないぜ?
けど…時々ヤバイ時がある。
「お父さん、宮田借りてもいいでしょ?」
こいつ、速いんだ…。
「宮田、本気でやれよな」
ヘッドギアを付けながら、佳織が言う。
「やるわけないだろ」
いつからこんな男勝りな喋り方を覚えたのか。
兄貴の木村さんも嘆いてるぜ。
まさかオレの口調真似してるわけじゃねぇよな…?
「集中しなよ。ゴングなるぜ?」
そのまさか…か?
その事についてのオレの思考は、ゴングの音と共に途切れた。