はじめの一歩
□いつか きっと
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「お前さ…佳織の事、どう思ってるワケ?」
遠慮がちに、木村さんはそう言った。
「…どうって?」
コーヒーカップを傾けながら、オレはそう返す。
「どうってお前そりゃあ…」
続きは吐き出さない。
オレが理解するのを待っている。
「用事があるって言うから来てみたら、そんな話ですか」
理解ならしている。
だけど…
「…じゃあ、単刀直入に聞くけどよ。お前、佳織と付き合ってるのか?」
「わかりやすい質問ですね。ならこちらもシンプルに答えますよ」
オレは木村さんの目を見て言った。
「答えは、NO」
「…っ」
「オレの恋人はボクシングですから」
はっきりと。
これだけは譲れない。
「…そう言うと思ったよ。お前が女に現を抜かすタイプじゃない事は十分わかってんだ」
「なら何故、わざわざ呼び出したりなんかしたんです?」
「けどよ…っ」
木村さんは言葉を選びながら慎重に続ける。
「オレは…お前になら佳織を任せられると思ってるよ。何処の誰かもわからねぇ男と佳織が付き合うくらいなら、元ジムメイトのお前の方が…いや、寧ろお前みたいな奴ならって…」
「…佳織は何て?」
「佳織はお前の事が好きだ!それは確信できる。けど…あいつお前の恋人にはなれないって言うんだ。そうなりたいわけじゃないって…」
恋人とか、友達とか、佳織の存在はそういう括りの中には入れない。
オレと佳織の関係を聞かれたとしても、オレには答える事ができない。
「けどよっ…お前だって佳織に気があんだろ?見てりゃわかるよ。お前ら両想いじゃねぇか」
「それはどうですかね」
「オレだってボクサーだ。お前程ストイックじゃねぇけど、お前の気持ちはわかるよ。お前程ボクシング漬けの毎日送ってりゃ、女に構ってる暇なんてねぇもんな。だから、お前も佳織も、お互いを恋愛対象として見ないようにしてるんだろ」
今度は木村さんが、はっきりと言った。
「お互いの為に、一定の距離を保ってるんだ!」
真摯な瞳が、オレに向けられる。
「お前らがそれでいいならいいんだ。オレが口を出すのもどうかと思う。けど…やっぱりさ、オレは兄貴として佳織が心配なんだよ。ずっとこのままだったらって…。このまま何年も経って、もしお前にその気が無かったら…」