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□drops
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――本当に、似てると思ったんだ――

あの地下で、鎖に繋がれた彼女の姿を見た時。

レイチェルがいるのかと思った。


レイチェルを殺した帝国の人間なのにどうしてと…

よく見れば別人。当たり前だ、彼女はもういない。俺がこの手を離したために、還らぬ所へ行ってしまった。


だからもう二度と、何かを諦めて後悔するような事になるのは嫌だった。
気付けば彼女の鎖を外し、リターナーへ誘っていた。

明らかに任務にリスクが増えるだけ。元帝国将軍など、助ける義理はなかったけれど。

一瞬でもレイチェルに似ていると思った彼女を、見殺しに出来るはずもなかった。


雨が、冷たく頬を伝った。
後ろを歩くセリスは何も語らない。


街を抜け、フィガロへ向かう時も、ナルシェの雪原でお互いの背中を預けて戦った時も。

芽生えた感情は大きくなるばかりで。それはレイチェルに似ているからという理由だけでない事を、自分が一番よく理解していた。


ナルシェからフィガロへ。そして――コーリンゲンへ。あの忌まわしい思い出の家へ。

レイチェルは、レイチェルの亡骸はまだ、眠っているだけだというようにそこに横たわっていた。

息絶えた恋人の遺体をいつまでも保存している俺は、もうどこか狂っているのかもしれない。

それでも、あの秘宝の噂を聞いた時から。



――世界のどこにあるともしれない幻の秘宝、フェニックス。
失われた魂を呼び戻す事が出来るという――


もう一度、彼女が目を開けてくれたら。その唇から、俺を呼ぶ言葉が聞けたら。


責める言葉でもいい。非難の目を向けられてもいい。


ただ一言。俺の名を。


もうずっと、それだけが俺の存在意義だった。


でも今は…。


雨が、彼女と俺を隔てるように降り続く。

セリスは何も語らない。


俺は、振り返らない。まだ振り返れない。
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