Novels

□雪の記憶
2ページ/15ページ

あれは帝国に来てから1年ほどした頃だったろうか。
毎日厳しい実験や稽古が続き、それでも私はまだ倒れず、かといって魔導の力を得てもいなかった頃。


一人の少女が連れて来られた。


緩やかな巻き毛。光の加減で朱にも見える茶色の瞳。


大人しそうな、しかし怯える風でもないその表情は、今までここを訪れたどの子供とも違っていた。


(また実験体が連れて来られたのか。)


憐れに思い見つめる私の前で、少女を連れてきた研究員が彼女に何か囁いた。


彼女は黙って頷くと、ゆっくりと手をあげ…

「!!」



―何が起こったのか解らなかった。


私の頬を何か大きな力が吹き抜けたと思った直後、背後が急に熱くなった。


振り返ると、そこにあった植木が大きな炎をまとい燃えている。


「あ…」


魔法… それも触媒を必要としない、最も高度な術。私とほとんど歳の変わらない少女が、これほどの技を身に付けているとは。


私は思わず少女に近づいた。あの頃の私には、自分より優れた者を素直に認めるだけの子供らしさがあったのだ。

「ねぇ、すごいね!あなた、名前は?」
彼女はゆっくりと顔を上げ、私を見た。
儚げな表情。形の良い唇が軽く動く。


「私はティナ。今日からここに来るように言われたの」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ