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□薄紅の影
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誰かが泣いてる。
この、まっしろな、何もない場所。
私はいつからここに来たんだろう。
あの子はいつからここにいるんだろう。
うずくまる小さな背中に近づいた。
なぜ泣いてるの?
「かなしいの」
どうして悲しいの?
「誰もいないから」
わたしがいるよ。
「あなたは、だれ?」
わたしは、あなた
「ちがうよ。身体の色も髪の色も、わたしとあなたは違うよ」
わたしは、あなたを守るために生まれてきたんだよ。
「ほんとうに?」
あなたは何もおぼえていないかもしれないけど、わたしはあなたをずっと見ていたよ。
―おとうさんと一緒に。
「お父さん…?」
おとうさんは今は閉じ込められて苦しいけど、いつかきっとあなたを助けてくれるよ。
わたしはあなたが悲しいのを代わってあげるよ。
だから今はゆっくりおやすみなさい。
「うん。もう痛いのも、苦しいのもいやだ…」
わたしは、泣きながら眠る彼女のふわふわな髪をなでて抱きしめた。
大丈夫だよ。わたしが守ってあげる。それがおとうさんとの約束だから。
わたしは、ティナを守るために生まれてきたんだから。