お題

□「言いたいことがあるならどうぞ」
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私と彼の年の差は5つ。
出会いは簡単。親に進められたお見合いだった。
前持って渡された大きめの白い厚紙が二つ折りされたのを左右に開くと、清潔感溢れるキリッとした顔立ちの男性写真が目に入った。外見は人並みより整っていて申し分なかった。
だが、お見合い写真を見た時から彼の中身の印象は全く変わらない。
見た目通りに生真面目で冷静な印象だった。バリバリの営業マンというか、仕事一筋。
温厚とか穏やかというイメージは一切なかった。この人が未だに独身である理由はこういうことも含めて理解できた。
だから、私は彼を目の前して不安になった。
「こちらが長瀬透くんだ」
彼にとって上司である父の紹介で、初対面の彼に向かって私は軽く会釈をした。それを見た彼も無表情で会釈した。
どうやらタダで笑顔は振り撒いてはくれないらしい。
こんなんだから恋人も結婚もできないんだ。こんな愛想もない人と一緒にいたいだなんて思うはずがない。こんなタイプが好きだと思える人間がいたとしても、私は断固として違う。
お見合いして婚約するなら、愛想良くて話しやすそうな男性が良かった。
私は嫌いだ。ついでに苦手だ。二人っきりなんてことになったら息苦しくて堪えきれない。
そもそも会話がなさそうだ。あったとしても、定番の「ご趣味は?」とかだったりして。十分あり得そうだ。
脳内で繰り広げられる創造に私は楽しんでいた。それを不審に思った彼は冷たい表情で、私に言い放った。

「言いたいことがあるならどうぞ」

私より20センチは高い彼にくるどく見下ろされ、ビクリとした。すかさず苦痛の沈黙の間を埋めようとすべく私は口を広げてしゃべった。






「あ、ご、ご趣味は?」

おどおどして咄嗟に出た言葉はこれだった。結局、私が罠にはすんなりとまったのだった。






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