お題

□「忘れていただけさ」
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「わぁ、可愛い」

電車の中で、偶然 小さい赤ちゃんに会った。
まだ何も知らない赤ちゃんの瞳は透き通るように純粋で、吸い込まれてしまいそうだ。
艶々とした肌で頬は紅色のように赤く、触りたいという衝動に駆られる。
「可愛いな」と私の背後から聞こえて、振り返ると彼が笑っていた。

「あ。笑ってる」

その言葉に彼が目を丸くして、私を見た。

「いや、ほら、加地くん笑わないから」と訳を言う。
彼はどうしてか笑わない。
メガネを掛けた彼の瞳は一向にくしゃりと皺を寄せて笑わない。
でも、どうやら天使のような赤ちゃんだけは別格らしい。
二人横に並んで電車にガタンゴトンと揺られる。
心のどこかで、彼が笑ってくれることを望んでいた。
だから、その瞬間が見れて私はなんだか嬉しい。
ちょっとした幸せを感じた。

「笑わないんじゃないよ」

何か意味ありげな発言に私は首をかしげた。

「忘れていただけさ」

そう言って、彼がまた優しく柔らかく笑った。




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