[ 笑顔 ]
自分の思っている事が、相手に伝われば良いのに……何も言わなくても。
スタジオ入りして、今日も真っ先に彼女に声をかける。
もちろん、笑顔で。
「おはよー」
「あ、おはよう……ふふふ、はい」
「?」
ソファに座っている彼女から笑顔と共に差し出された、よく冷えたペットボトル。
疑問符を浮かべたまま彼女の横へ座った俺に、今度は笑い声をプラスしてくる。
「もうっ。暑いだろうと思って差し出してるのにー……相変わらず、鈍感なんだから」
「あぁ!ごめん、分かんなかった……ありがとう」
どっちが鈍感なんだか、と 苦笑しながら彼女からペットボトルを受け取って、少しでも暑さを忘れようと口に含んだ。
俺が彼女へ喋り掛けようとしていると、向こうの方から誰かが彼女を呼び寄せる。
「……あーぁ……」
呼ばれるまま、彼女は向こうへ行ってしまった。
楽しそうな笑い声が聞こえる。
もちろん、彼女の声も。
皆な仲間なんだし、あの輪の中に入っていったって、どうって事はないのに……。
「はぁー……」
知らず知らずの内に俺は、ため息をついていて。
気持ちが落ち込むのなら見なければ良いのに、でもやっぱり彼女を見ていたくて……。
「何、ぼぉ…っとしてるの」
「え…」
呼ばれて気が付くと、何時の間に戻ってきたのか…彼女が立っていた。
俺の好きな笑顔をたたえて。
その瞬間から自分でもびっくりする位、穏やかな気持ちになって……そんな自分にクスリと笑う。
彼女もそんな俺を見て、クスクスと笑う。
「何、どうかしたの?」
「…ん、なーんでも。あ、今日 時間ある?」
「奢ってくれるなら、考えても良いわよ?」
ソファに腰を降ろしながら、優しい声音と悪戯な笑顔で彼女は応えてくれた。
この後君に、何て告げようか……。
出来ればずっと、変わらずに君の笑顔が見れます様に。
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