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□敗戦に消ゆ
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「元親様、元親様。」




とたり、とたとた、足音一つ




「どうした?名無しさん」

「元親様っ!」




辿り着いた鬼に縋り付く。



「行かないでくださいまし。」




はらりはらり、涙が落つる




「鬼の嫁が情けねぇ顔するんじゃねぇ。」

「されど、」




されどされど




「この戦は・・・っ」

「分かってる。」




ずい、と抱き寄せられ




「それでも、」

「嫌っ!嫌でございまする!」




溢れ出るは涙ばかり




「悪ぃな。」


「謝らないで、くださいまし・・・っ」




伸ばした腕が宙を掻く




「愛してた。」

「存じて、おり・・・ま、す。」

「嘘じゃねぇ。」

「・・・っ」




はらり、と鬼の頬を涙が伝う




「泣かないで、くださいまし、元親様。」




はらりはらはら




「嘘じゃ・・・っ」

「なれば・・・っ」




じきによはあける




「お前は、行け。」

「・・・っ!な、何故・・・!?」



共に



この身朽ちるまで隣に




「側に、置いてくださいませ。」




ひかりさすそらが




ただただ




うらめしい





「駄目だ。」




ゆるり、と腕が遠ざかる




「愛した女には幸せになってもらいてぇんだよ。」

「私なら・・・っ」




つとん、と口付けが落ちた




「じゃぁな。」

「元親様っ!」




とたり、と足音が消えていく




「何故・・・」




何故何故何故なぜなぜなぜなぜ




何故、




「何故でございますか、元親様・・・っ」










「長曽我部元親、討ち取ったり。」







落とされた鬼の首級







敗戦に消ゆ






(鬼の骸一つ)



(抱けないまま)






(空が明けた)




.

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