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□Beautiful Fighter
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「オヤジ、団子3本頼むわ」


外の椅子に座って、すっかり顔馴染みになった店主にそう声を掛けると

「あいよ。茶は其処にあるから自分で煎れとくれ」

なんて言われた。

「はいはい。‥…サービス精神の欠片もねェな、此処は」


聞こえない様に呟いて、立ち上がるとオヤジは団子の乗った皿を片手に店の奥から出てくる。


「廃れた団子屋にんな事求める方が野暮ってモンだよ、旦那。はいよ、団子3本」


…やべ、聞こえてた。
まァ良いか。

「どうもォ」


煎れたばかりのお茶と、その皿を受け取ってからまた椅子に座る。


店の中へ戻ってテレビを見始めるオヤジを横目に団子を頬張りながら、あァ、やっぱ3本じゃ足りねェかも、と頭の隅で考えた。

でも昨日もパフェ食っちまったし、今日はちょっと抑えねェと流石に血糖値がヤバそうだ。
…そういや明日パチンコのイベントって長谷川さんが言ってたっけ。
朝一で行ってみっかなァ。


「……‥ん?」


ふと視界に入った人物に、目を凝らす。

見慣れた隊服を身に纏ったそいつは多串君でも沖田君でも、ましてやゴリラでもなくて


「名無しさんー」


ヒラヒラと手を振ると、それに気付いた様で、

「…あァ、坂田さん。今日和」

と立ち止まる。


その目元には殴られた痕の様な痣が出来ていた。


「まーた傷作ったの?お前も懲りないねェ。女の子なんだから体は大事にしなさいって」

「坂田さんこそ毎回毎回同じ台詞言ってて良く飽きないですね」




名無しさんとは数週間前に偶然沖田君と歩いてる所に出くわして、真選組の新しい隊士だと紹介されてから街中でたまに会う程度の関係で、そんなに親しい訳じゃ無い。

だけど、会う度に必ず何処かしら怪我をしているから(…確かこの間は腕だったか)最近じゃこんな会話が挨拶みたいになってる。


「まァ座んなさい」

自分の隣をポンポンと叩くと、
大人しく腰掛ける名無しさん。


余り感情が顔に出ないのに、今日は何でか
そう、何でか落ち込んでる様に見えた。

仕方ねェから団子でも奢ってやるか。


「あ、オヤジィ!団子もう3本追加ー。ついでにお茶も頼むわ」

「…あいよ」


渋々、といった感じに立ち上がるオヤジは放っておいて名無しさんに視線を戻す。


「で、今度は何したんだよ?」


「……別に」

無表情のまま遠くを見つめるその横顔に、溜め息が零れた。


まァ、大方想像は出来るけど。
こいつの事だからまた1人で無茶したんだろう。


「…はいよ!」

オヤジはお茶と皿を置くと、また店の中に戻っていく。


「…ほら」


団子を1本名無しさんの顔の前に差し出すと、少しだけ眉を上げた。


「食えよ。此処の団子すげェ美味ェから」

「……‥」


迷いながらもそれを受け取って小さく

「…有難う御座居ます‥」

と呟いた名無しさんに満足して俺ももう1本手に取る。

結局3本以上食っちまったけど、まァ明日我慢すれば何とかなるか。

それを食いながら名無しさんを見れば、串を持ったまま動かない。


「‥…近藤さんに怒られちゃいました‥」

「………」


弱々しく言葉を出すその姿を唯黙って見つめる俺に、視線を向けないまま続けた。



「…どうしてそんな無茶ばっかするんだって、女なんだからって。坂田さんと同じ事言われましたよ」


そう言うから、食い掛けの団子を皿に戻す。


確かに、名無しさんは強ェと思う。
だけどそれと同じ位、もしかしたらそれ以上に負けず嫌いだから
話を聞いてるといつかその所為で命を落とすんじゃないか、とも考えてしまう位だ。
多分、ゴリラもそう考えてるんだろうけれど
同じ思考っていうのが何か、な…。


「…私、男に産まれたかった‥。そしたら皆と対等に戦えたのに」


聞こえない位小さく呟く名無しさんに、頭を掻いて天を仰いだ。




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