小説置き場
□何を描く
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じっと見つめる瞳。
繊細な指先。
何より夢中で書いている時の、うっすらと開いた唇。
見ていてとてもセクシーでたまらなくなる。
それが私に向いていなくても、それでもいい。
いや、手放しに喜べる状態ではないけど…。
「君は、僕が漫画を描いている時、暇じゃあないのか?」
「いや、別に。」
ふとそう問いかけて、そうか。とだけこぼすとまた目の前の原稿に目を向けた。
相変わらず華麗な手さばきで、描いている姿すら見る者を魅了する。
どうやらベタ塗りを開始した模様。
相変わらず私には理解不能な技術だ。
なぜインクが、あんなに思い通りの場所に飛んでいくのか。
「おい。」
「ん?なに?」
ぼーっと彼の手さばきを見ていたつもりが、どうやらどこも見ていなかったらしく、既に片付け終わったであろう露伴が、目の前に立っていた。
「さっきからそんな顔をしてみられていたら、居心地が悪いだろう。」
「そんな顔って?」
「君、結構怖い顔をしていたぞ。」
「失礼ね、真面目な顔をしていたのよ。」
綺麗でしょう?と、ちょっとおどけて言ってみたら、フンと鼻で笑い何か言ったが、聞こえなかった。
「えっ、何?」
「べっ、別に!!とりあえず、仕事は終わったから、ほら、僕に何か言うことがあるだろう?」
焦ったり、俺様だったり、彼の表情筋やら感情は忙しいことだ。
「えっと、あーはいはい。お疲れさまでした。コーヒーでいい?それとも紅茶?」
「君の好きな方でいい。」
「ん、じゃあ今日はコーヒーね。」
「あぁ。」
さっきまですらすらと動いていた指先をちらりと盗み見ると、インクで少しだけ汚れていた。
「コーヒー淹れている間に、手、洗って来たら?インクで汚れてるよ?」
「あぁ。」
返事はするものの、そこから動こうとしない露伴。
彼が動かないから、私もなんだか動いてはいけない気がする。
「ろ、露伴?」
「君はさァ…アレ、狙ってやってるの?」
アレって、なに?
そう問いかけようとしたのに、言葉は口から出てこなかった。
代わりに出てきたのは、吐息だった。
「んっ…」
「君があんなに舐めまわすように見るから悪いんだ。」
「んぁ…そんなに、見てないよ…」
「いいや、見てたね!君のイヤラシイ視線がひしひしと飛んで来ていたぞ」
そう言うと、彼はまた、キスを再開した。
私は、コーヒーを飲むのは、大分先だなぁ〜とか、手に付いたインク、顔に付かないかなぁとか、色々考えていたが、あまりのキスの深さに、考えるのをやめた。
ただ感じるのは、露伴だけ。