小説置き場

□それが、欲しかった。
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いつもあなたは先陣を切って私より先に歩いている。
身長だって私より高いし、その瞳の色は、私とは違う。
なにより…

何よりも追いつけないのは、年の差。

あなたの見ている世界を私も見てみたい。


「何を考えている」

目の前を歩いていたはずの彼が突然声を掛けてきた。

「へっ、あ、いやー何も…ないですよ?」
「疑問系か…まぁいい。急げよ。」
「はーい」

沈黙。
彼は、空条承太郎はまた前を向き歩みだした。

私と彼の足のコンパスの長さが違いすぎるので、彼がゆっくり歩いても私は小走りになってしまう。

それに気付くと、彼はまたゆっくりと歩く。
普通に歩くよりもそれは、とても疲れるのではないかと思うほどの本当にゆっくりな歩み。


「承太郎さん」
「ん?」
「承太郎さんは、いつも眉間にしわを寄せて折角のきれいなお顔が台無しですよ。」
そう告げると、彼はもっと眉間にしわを寄せた。

「てめぇ、何のつもりだ?」
「いえ、思ったことをそのまま口に出してみました。」
「そうかよ。」

また、沈黙。

べつにこの空気は苦手じゃあない。
きっと、彼だからだろう。

元々ゆっくりだった歩みが完全に止まり、彼が私の方を見ていた。

「お前は、いつも笑っているな。」
「そうですか?」
「あぁ。」


「それは――

貴方が一緒だからだなんて言えたら、良かったのに。
でも、子供でも大人でもない私には、無邪気にも大人っぽくずるくも言えなかった。


――いつも承太郎さんが難しい顔してるからです。」


「そうか。」
「たまには笑ってくださいよ」
「気が向いたらな。」
「それ、いつかなぁ…」
「ふん、さぁな。」

そういいながらも、薄く笑った彼を見て、とても、とても幸せだった。

そう、これだけで十分なんだ。私は。
私は、これが、欲しかったんだ。

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