小説置き場
□アナタにおめでとうを
1ページ/1ページ
時計の針は、既に夜の11時50分を指そうとしている。
シュテルンビルトの夜は明るい。
眠らない街といわれたら、やはりそうかと思うほど、この街は明るい。
そんな夜中に、私は走っている。
「間に合え間に合え間に合え間に合えーーーー!!!」
本来ならば、もう目的地でシャンパン片手に優雅に過ごしているこの時間。
なのに今、私は走っている。
「ったく!なんで今日に限って残業になるのよ!ホントにありえない!!」
私が仕事を上がる直前に、今取り掛かっているプロジェクトの重大なミスがあると上から知らされ、帰りたくとも帰れない状況になってしまい、結局その仕事が終わるまで・・・こんな時間まで会社に残ることになった。
「うわぁ〜うわぁ〜絶対に直接会えないフラグじゃん!」
走りながらも鞄から携帯を取り出し、お目当ての番号を即見つけ、コール。
3コール目で相手が出た。
「もしもし?」
「バーナビーごめん!!間に合いそうにない!ホントにごめん!!!」
「なつき今どこに居ます?」
「えっ、えっとね、シルバーステージの・・・えっと、ほら!大きい街頭モニターのあるところ!」
「あぁ、そこからじゃ僕の家までは間に合いませんね。」
苦笑い。
そりゃそうだ。
本当ならシャンパン片手に・・・
「なつき、止まって、右を見てください。」
「えっ!?止まって・・・み、ぎっ!!?」
言われた通り振り返ってみれば、見たことのある赤いスポーツカーに、いつもと服装は違うが見たことのある人。
左手で携帯を耳にあて、右手でこちらに手を振っている。
「バニー!?」
「早く乗ってください。じゃ、切りますよ。」
言うと同時か切れた電話からは、プープーと無機質な音がエンドレスで流れている。
急いで携帯を鞄に突っ込み、彼が居る方へと走り出した。
急いで彼の車の助手席に飛び乗り、車は走り出した。
乱れた呼吸を整え、彼に疑問をぶつけた。
「なんでここに?」
「あぁ、ちょうど貴女が仕事上がるくらいかなって時間に、たまたま斉藤さんの所に用があっていっていたんです。そしたら斉藤さんがバグを見つけたから、なつきを呼んでくれって電話してるのを聞いたもので。」
そう、私に残業を強いたのは斉藤さんだ。
いや、バグを見つけ切れなかった私も悪いんだけど・・・。
斉藤さんが最近興味を示しているのが、アンドロイド、だそうだ。
その研究の助手として私がついている。
「時間かかるかなって思って、迎えに来たんですよ。それなのに貴女、メールもろくに確認せずに会社から飛び出して行くし、仕方ないからここに先回りして待ってたんですよ。」
彼はにっこり笑いながら、ここ、通り道でしょ?と。
あわてて携帯を見てみると、バーナビーから3件メールが来ていた。
「ごめん、メルマガだと思った。」
「はぁ、そんなことだろうと思いました。一応チェックしてくださいよ、もう。」
口では怒ったように言っているのに、彼はどこか楽しそうだ。
雰囲気が柔らかい。
口の端が上がっていて、穏やかな感じ。
ふと車についているデジタル時計を見ると
【11:59】
どうやらギリギリで間に合ったようだった。
「ねぇ、バーナビー。」
「はい?」
40秒前
「あのね、いつも心配掛けてごめん。」
30秒前
「それに、いつも言われてるのに、携帯とか確認してなくて、ごめん。」
20秒前
「本当はね、今日がもし通常業務なら残業蹴ってでも帰ったんだけど・・・」
「斉藤さんの件なら別に構いませんよ。直接的ではありませんけど、僕らの為に頑張ってくれているのは、良く分かりますから。」
緩やかに車は歩道の近くへと寄り、そしてその進行をとめた。
5秒前
「あのね、
4
バーナビー
3
いつもね
2
ありがとう
1
・・・
0
お誕生日、おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。大好き。」
バーナビーは目を大きく開け、嬉しそうに笑い、私にキスしてくれた。
そっと耳元で「俺は、愛してますよ。」と、やさしく囁いてくれた。
END
間に合った・・・
バニーの誕生日に間に合ってよかったです・・・ホント。
いつまでも素敵なツンデレでいてね!
おめでとう!バーナビー!
2012.10.31