お題作品
□真夜中
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夜中に散歩するのが好き。
静かで、みんな寝ているから。
ほとんど誰にも会わないこの時間帯がとても落ち着く。
夜独特の暗闇と空気を体に纏いながら、ゆっくり歩く。
――〜♪
「ん?」
誰だろう?こんな時間にメールしてくるなんて。
From:鳴上悠
件名夜中にごめんね。
2012/01/25 01:14:36
―――――――――――
夜遅くにメールしてごめん。
変な事聞くかもしれないけど、もしかしてさ…
外に居る?
さっき部屋から外見たら、藍っぽい姿が見えたからさ…
まだ外に居るなら話さない?
追伸、寝てたらホントごめん。
―――――END―――――
鳴上君からのメールだった。
どうやらふらふらと適当に町を歩いていたので、鳴上君が住んでいるお家の前を通ったようだ。
「えーっと、起きてるから大丈夫だよ…今は、鮫川の土手の所に居るよ…っと。送信。」
基本的に夜は一人が好きだけど、それは鳴上君相手には通用しない。
落ち着いて散歩していたはずなのに、彼からのメールのおかげで、今はドキドキしっぱなしだ。
私がメールを送ってから、ほんの数分で彼から返事か来た。
「今から行くから、待ってて。」
絶対に私よりメールを打つのが早いと思った。
待ってて、と言われたし、あまりうろうろしない方が良いだろうと思い、土手の方に小さな屋根つきの机と椅子があるので、そこで大人しく座って待つことにした。
これ、何て名前なのか知らないなぁ…なんてボーっとしながら待っていた。
「藍、お待たせ。」
その声と同時にマフラーが巻かれた。
「あ、マフラー…ありがとう。」
「こんなに寒いのにマフラーも巻かずに徘徊してるから心配になってさ。」
「徘徊じゃなくて、お散歩です!」
「ははっ、ほら、これも。」
彼は笑いながら私の向かいに座り、コトンと目の前に置かれたのは缶のホットミルクティー。
「あ、ありがとう。お金…今持ってないから学校で会った時で…」
「いいよ別に。俺も飲みたかったし、それ、半分こね。」
「はーい、って…え、はんぶんこ?」
「うん、それがどうかした?」
彼は既に缶を開けて飲んでいた。
「はい。」
「…あ、ありがとう。」
受け取ってしまった以上、飲まないといけない気がする…
「…ごくっ。あ、美味しい。」
「温かいだろ?こんな時期に、しかも真夜中に散歩するなんて…絶対冷えてるだろうからって思って。」
彼は物凄く気遣いが出来る人だと思う。
年の割には落ち着いているし、気の回し方なんて高校生だとは思えない。
「…ありがとう。ねぇ、鳴上君、なんでこんな時間まで起きてたの?」
「いや、なんか眠れなくて。」
「そこにたまたま私が通りかかったのを見かけた…と?」
「まぁ、そんなところ。あーさむっ。」
良く見てみると、彼の首元にはマフラーが巻かれていなかった。
「そりゃ寒いでしょ!マフラー私に貸してくれたからだよね?はい、返すからつけて。」
巻いてもらったマフラーを取り、彼に差し出す。
「いいよ、そうすると藍も寒いだろ?だから…」
そう言いながら私の隣に移動してきた。
そして、私が差し出した彼のマフラーをもう一度私の首に巻き、そして自分の首にも巻いた。
「なっ、なななっ…」
「ほら、離れると首が締まるか、マフラー外れるからもっと近づいて。」
夜中に似合わないくらい輝いている彼の笑顔に、とても逆らえる雰囲気ではないので、こぶし一個分くらい開けて座った。