お題作品

□あいにく傘は一本しか持ってない
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朝はとても良い天気だった。
それはそれはもう、洗濯物を干したらものの1時間で乾きそうなくらいの晴れ晴れとした、そんな天気だった。



「そ、れ、な、の、に…なんで雨降ってるのよーーー!!!」
「藍ここ、全校生徒が通るところだからね。下駄箱だからね。叫ぶのはやめようか。変な目で見られてるよ。」

淡々と私をなだめるクールボーイ、鳴上悠。
なぜかは知らないけれど、花村からは相棒だの、リーダーだのと呼ばれている。
なるほど、この冷静な突込みがリーダー気質なのか。

「一人何を納得しているのかは知らないけど、とりあえず落ち着け。」
「これが落ち着いてられますか!今朝普通に洗濯物干しちゃったよぉ〜!うわぁ、今頃びしょびしょじゃん…」
「じゃあ、帰ろうよ。洗濯物の為にも…自分の為にもさ、ホントこの場からすぐに離れよう。俺まで変人だとは思われたくない」
「それが本音でしょうが!」

しかし、私もいい加減帰りたい。
というか、鳴上に言われて気づいたけど、確かに周りから変な目で見られていた。
うーん、そろそろ居たたまれない。やばい。帰りたい。

「んじゃ、帰ろう。」
洗濯物を干してくるくらいだ。
もちろん傘なんて持っていない。
なので、鞄を頭の上に持ち上げ、頭を庇うようにして出口へと向かう。

「お、おい。春咲、傘は?」
「持ってないよ。だからうなだれてたの」
「あぁ、だから叫んでたのか。」
「何故言い直す。そして何故言い直す。」
「何で2回言ったの?」
「大事なことだと思ったので」
「はぁ、はいはい。そんなことはいいから、傘もってないなら早く言ってくれればいいのに。」

華麗にスルーされてちょっと悲しくなった。

「…なに、傘2本持ってるの?」

「いや、持ってないよ。」



あいにく傘は一本しか持ってない

だからあいあい傘して帰ろう?

とびきりの笑顔で誘われた。
もちろん私は断れるはずもなく…家まで送ってもらいました。


(ね、ねぇ…近くない?)
(近づかないと濡れるから仕方ないだろ?ほら、もっと近づかないと)
(かかか、肩に…手、手が…)
(…かわいい。)

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