お題作品

□彼女が俺を残して、卒業する日
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春、新しい出会いの季節。
少し心が弾む季節だ。

でも、俺は全然心なんて弾まないし、ましてやウキウキとした気持ちになんてならない。

春、それは俺にとっては只の別れの季節でしかない。
俺はずっとここにとどまり続け、あの人はここから離れていく。
学校から卒業するだけではなく、この町からも出て行くらしい。
進学のために、都会に一人で行くそうだ。



「先輩…」
「あっ、花村君!」

先輩の友達だろう。彼女の周りにたくさんいた。
俺が声を書けたら、笑顔でこっちまで来てくれた。

「来てくれたんだ!」
「まぁ、先輩も今日で最後だからさ!俺がいないと寂しがると思って!」
「あはっ、確かに。いないのかなぁ〜って思って探してたから、声掛けてくれてありがとう。」
「えっ…」

先輩が俺のことを探してくれていた。
それだけでもう、うれしかった。
うれしかったけど、これも最後なのかと思うと、すごく、すごく寂しくなった。


「ね、ここじゃなんだしさ、ジュネス、行かない?」
「えっ、でも…友達とかいいんすか?」
「うん、さっき大体挨拶終わったし、もーいいの!」

そういって、俺の手を握って、歩き出した。
「ちょっ、先輩!?」
「ほーらー!早く行かないとあっという間に日が落ちちゃう!」

そのままニコニコ笑いながら、俺を引っ張ってジュネスまで行った。
ずっと、手を握ったまま。


そして、ここも既に懐かしく感じる元特別捜査本部。
お互いに飲み物と軽く食べるものを頼み、席に着いた。



「んー!おいしい!卒業式、ホント長かった…」
「先輩の周りの人たちは泣いてましたけど?」
大体って感極まって…って言うのが多い気がするけど、この人は全然そんなのを感じない。

「あー、確かにもうあの学校には通うこともないんだなーなんて思ったら寂しいけどさ、二度と会えなくなるってわけでもないでしょ?」

まぁ、確かにそうなのかもしれないけど。それでも
「でも、先輩は引っ越すんですよね?じゃあ…」
学校に居た頃よりは会えない。
「今までよりは会えなくなるけどさ、会おうと思えば会えるじゃん!電車で2〜3時間だよ?」

「…そうっすけど、でも」
「なになにー?花村君寂しいのぉ〜?」

頬杖しながらニヤニヤと俺のほうを見て楽しそうにしている。
なんだろ、ちょっとむかつく。

「先輩は寂しくないんですか?」
「うん、なんか引越し先、どうやら鳴上君の家と近いらしくてさ〜」

なんだと相棒、俺、そんな話初耳だぞ。

「それに、多分寂しくても、平気になる方法知ってるし。」


「それって何?」
そう聞こうと思ったのに、彼女の顔を見たらいえなくなった。
さっきまでニヤニヤしていた彼女の顔が、すごくまじめな顔をしている。


「ん、ちょっと耳貸して?」
「はい?」

ちょっと腰を上げて、彼女に耳を近づけて聞く体勢に入った。






「引越ししても、花村君が毎日私とお話してくれるなら、寂しくないよ。」

「そ、それってどういう…」

「すき。」


―ガタッ!

「いってぇ…」

驚きのあまり、椅子から落ちた。
結構派手な音がしたので、周りに居た人に見られたけど、そんなの気にしてられねぇ。

「あ、あの、先輩それって!!」

「毎日私とお話、してくれますか?」


そんなの決まってる。
「当たり前だろ…俺も好きです。」
そう伝えた。
彼女はとても満足そうに微笑んでいた。




彼女が俺を残して、卒業する日

その日、俺の心を奪って遠い町に行った。

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