ヴァンパイア騎士:連載

□温もりの糸
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今日も声が聞ける

だからさみしくない…




【温もりの糸】



今日もまた独り

誰も訪れることのないこの館。


寂れてしまい、誰も近づこうとはしない館。


しかし最近、夜な夜な電話の音がするという…





―――プルルル…

「もしもしっ」

受話器を取ったのは、この錆びれた館に似合わない、幼い女の子だった。


「おはよう。おとなしくいい子にしてた?」

「うん。かなめさま」

電話をかけてきた相手は、玖蘭枢。

電話に出ているのは…

「さて、今日はどんなお話をする?」

「あのね、あのね、どうしてわたしには【なまえ】がないの?」


「あぁ、そうだね。君には名前がなかったね…」

質問をしている少女は、名前がない。
見た目からして6歳ぐらいだが、話す相手がいなかったのか、話す言葉は片言が多い。



「君は、名前が欲しい?」

「うん。かなめさまにはかなめさまっていう…なまえがあるから…わたしもほしい」


「そう。でも、僕が付けてもいいの?」

「かなめさまがいいのっ」

電話越しにでも分かるほど喜んでいるこの少女。



「そう…じゃあ…―――にしよう。君は今から―――という名前だよ」

「ありがとう!!かなめさまっ!」


名前を付けられた少女はとても喜んだ。

そして、眠くなったのか、枢にその意思を伝え電話を切った。


そしてベッドに入り、眠りについた。












―――その少女は二度と目を覚ます事はなかった。








「枢様。ナンバー00572只今処理が終わりました。」


「そう。御苦労さま。下がっていいよ」

処理…

先ほどまで、電話をしていた少女は、元人間の吸血鬼。
そして、錆びれた建物は、元人間の吸血鬼…

いずれはレベル:Eに堕ちる者達の墓場だった。



今日もまた、レベル:Eに堕ちたものの処理が行われた。

そのリストにあの少女が含まれていた。




「―――さようなら。永遠に出会う事のない小さなお姫様。」



そっと静かに…
00572と書かれた部屋の中で、灰が風に吹かれ消えていった。






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