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□壊せばいいじゃないか
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いつもそうでしょ。どんなお話でも、性格の良い綺麗なお姫様は、これまた美しくてすてきな王子様と結ばれて幸せで、はいハッピーエンドめでたしめでたし、って、毎度のパターンよね。
逆に言えば、美しい王子様は綺麗なお姫様と結ばれるわけよね?


………はあ…。

ここ、わたしの所属する一年九組にも王子様がいる。
泉孝介くん。野球部。すっごくかっこいい。かっこよすぎて、人気過ぎて、モテ過ぎて、もう、言うなればジャ〇ーズ系アイドルに近い。カリスマ王子ってとこかな?

性格は王子様ってより王様に近いけど、それもまた魅力の一つだ。ああかっこいい。

おとといの席替えで、わたしはその泉くんの隣の席を引き当てた。しかも泉くんは最後列の窓側。隣の席はわたしだけ(ここ重要)。ああ、一年分の運を使い果たしたな、って思った。

見れば見るほど泉くんはかっこよくて、かっこよすぎて、泉くんに憧れるおんなのこはいっぱいいるけど(例に漏れずわたしも)、いっぱいいるからこそ、やっぱり可愛くて性格も良さそうな子が泉くんの彼女になるんだろうなあ。そんな考えばかりが頭の中をぐるぐると巡る。

まあ顔も普通であんまり目立たなくて、泉くんと事務連絡以外のことを話したことがない、そんなわたしには到底無理な話です。

王子様はお姫様と結ばれるべきだものね。わたしはそうだなー、村娘Cってところかしら(A、Bですらない)。わあ〜地味〜(悲しくなってきた)。


「おい」

「………」

「おいっ」

「えっ!…え?…わたし?」


声のする方向を見ると、あれあれ、泉くんだ…!なんでわたしなんかに話しかけたんだろ?いやこれはわたしに話しかけたんだよね?そうじゃなかったらわたし相当痛いぞ。
わーわー嬉しいな。なんだろ。


「そーだよ」

「な、なにか…?」

「教科書忘れたから見してくんね?机くっつけてい?」

「え、ええー、どどどうぞ」

「ええーてお前な、そんなナチュラルに嫌がられると、オレ傷つくんだけど」

「いやっ嫌がってないです嬉しいですありがとうございます」

「……ほんとにヤなら、別にいいんだけど?」

「いっいやじゃないよ全然まったく!」

「なら遠慮なくー」


そう言いながら泉くんは机をくっつけてきた。かたん、と机同士がぶつかる軽い音。わたしは教科書を真ん中に置いた。わりーな、そう言って泉くんは教科書を覗き込んだ。いいよ教科書くらい、そう返す。

内心(いや結構外にも出てるけど)どっきどきで、心臓がばくばくうるさくてああどうにかしてくれ!

ちょっ、いいのかなこれ?!わたしこんな幸せでいーのか!?後で変な呪いとかないよね?見返りとかないですよね!かみさま!


「なあ」

「えっなに」

「お前、スッゲ勉強してんだな」


泉くんの視線の先は、書き込みが沢山してあって少し汚れたわたしの教科書。


「…きたなくてごめん」

「や、全然いーと思うけど。もしかして数学苦手?」

「うん」

「いーじゃん努力」


そう言って泉くんはにかっと笑った。

まさにキラースマイル。殺傷能力高し…!間近で見た分、攻撃力は三割増しだ。泉くんわたしを殺す気ですか。


「あと、これってマジ?」


泉くんの右手人差し指の先を辿るとわたしのノートの左上端。


「えっ?」


たぶん消し忘れだ!
そう思った瞬間、わたしの少し開いていた唇がなにかで塞がれ、一瞬意識も吹っ飛んだ。

なにかが離れ、だんだん思考回路も正常に働いてきた時、目の前の泉がさっきみたいにまたにかっと笑って、


「ごっそさん」


とだけ言った。











ありきたりなストーリーなんてぶち壊せ!


(『泉くん好きです』)(、たったそれだけの消し忘れ)









*泉くん手早すぎだ
ヒロインは自分で思っているより地味じゃなかったりします!


07/11/16
 

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