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□夏祭り
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「喉、乾きませんか?」
「ああ…そうだな。そこの屋台を覗いてみるか。何がいい?」

ルークは「うーん」と唸ってオレンジジュースの入った容器を選んだ。
ピオニーはまだまだ子供だなと笑い、自分はアルコールを注文した。

支払いを済ませ、買った飲み物を手渡してやれば、先程の言葉が癪に障ったのであろう、むくれた表情のルークと目が合った。

「そう可愛い顔をするな」
「…誰のせいだと思ってるんですか」
「俺のせいだったか?」

悪びれる様子もなくからからとピオニーが笑う。
そんな事より『可愛い』とはどういう意味か。
更にカチンときてしまうルークだったが、それを言うだけ無駄な気がした。
彼を相手に決して口では勝てない。
口以外でも敵わないけれど。


「あ、」

買ってもらったジュースを飲みながら、一件の屋台を通り過ぎようとしてルークはふいに声を上げた。
そこの商品には見覚えがあった。

「どうした?」
「アレ…」

屋台を指差すルーク。
それだけで相手はルークの言葉を理解した様だ。
ニッと笑ってその屋台に近付く。
そこは色んなゲームやらオモチャやらを置いてある、さして珍しくもないクジ引きの店だった。

ただ、そこにあった景品が一際目を引いた。

「欲しいのか?…よーし、俺が当ててやろう」
「べ、別に欲しいなんて一言も…」

言い終える前にピオニーはすでに店の主人に代金を払ってしまっている。
これ以上何を言っても無駄だと悟ったルークは、成り行きに任せる事にした。

「お前の分も買ったぞ。ほら、引いてみろ」

内心そうまでして欲しいとは思わなかったが、それを口に出すのは流石に憚られる。
言われた通りにクジの山に手を突っ込んで、そこから一枚を選んだ。
中を開け番号を確認する。

「次は俺だな。じゃあ…これにするか」

店の主人に引いた紙を差し出す。
番号を確認終えた主人は、数ある景品の中の一つをルークに差し出した。

「ホラ、お前さんはハズレだよ」

渡されたのはちいさな硝子玉。
透き通った綺麗な色合いのそれ。
役に立ちそうにはないが、帰って部屋に飾っておく分には、まぁ悪くはないだろう。

「それから、この兄さん、なかなか勝負運が強いと見た!どれでも好きなの持っていきな」
「じゃあ遠慮なく貰っていくぞ」

まさか、とルークは思う。
本当に運の強い人だ。
まぁ、そうでなければ一国の主なんてやってられないのかもしれないが。
数ある景品の中から、ピオニーは一つを選び抱えあげる。

「兄さん、そんなのでいいのかい?」
「こいつが本命なんだ」

ニッと笑いその場に呆然としているルークにそれを渡した。
正直、こんなものを渡されてどうしたらいいのか分からない。
だが、せっかく貰ったものを無下にする訳にもいかない。
眺めていれば可愛らしいかもしれないが、家に辿り着くまではちょっと恥ずかしいお荷物でしかないそれ。

「な、似てるだろ?」

『何に』とは言わない。
聞かなくたって分かる。
大きな“ブウサギの抱きまくら”。
ピオニーが可愛がっているペット達にそっくりだ。

「どうしたらいいんですか…コレ」
「お前の好きにすればいいさ。煮るなり焼くなり好きに使え」

もちろん手放す事も自由にしていいぞ。
そう言うピオニーが一体どこまでが本気なのか、ルークには測れない。

「俺が陛下から頂いたもの、捨てられないの知ってるくせに」

ただでさえ険しい道のりが更に遠くなった気分だ。
けれど、嫌ではない。

境内の方から太鼓を叩く音が聞こえてくる。
それから、御輿を担ぐ元気な子供達の声。

「見に行ってみるか」
「そうですね!」

2人の後ろ姿は明るい笑い声と共に、人込みの中に紛れていった。


end.
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