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□夏祭り
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「…ふー、あちぃ〜」
「全くだ、酷い混みようだな」

年に一度のイベント。夏の風物詩、夏祭りにピオニーとルークはやってきていた。

仕事が一段落したピオニーと共に、息抜きがてら遊びにきたつもりだったが予想以上に人が多い。
ごちゃごちゃとした人込みの合間を縫う様に歩みを進めながら、ルークは溜め息混じりに呟いた。
人の波に揉まれたせいと周りの熱気にあてられた事により、着崩れた浴衣の襟を気にする余裕もなく歩いていたルーク。
それを見てピオニーは軽く苦笑した。


「ホラ、こっちに来い」

そう言ってルークの腕を掴むと、比較的人の少ない街灯の下を選んで連れ出した。
そこでルークの乱れた浴衣を正してやる。

「あ…ありがとうございます」

気恥ずかしそうにお礼を言うルーク。
自分よりも一回り程大きな身体を遠慮がちに見上げれば綺麗な蒼と目が合った。
ゆったりと浴衣を着崩してはいるが、決してだらしなく見えない。
手に持った団扇で仰ぎながら涼んでいるピオニー。
それがなかなかに様になっている。
ルークは自然と顔に熱が集まっていくのを感じた。

「ん?どうした?じっと見つめてきて。そんなに俺が格好いいか?」

相変わらずの自意識過剰な台詞にルークは言葉を無くしてしまう。
すでに自分の心の中など見透かされているのだろう。
自信に満ちた瞳が遠慮なしにこちらを見下ろしてくる。
そんな自由な君主が持つ、鮮やかな金髪とは対照的な、渋めの色遣いの浴衣を纏っている。
流石というべきか体格の差なのか、ルークのものとは違い大人の雰囲気を醸し出している。
と、ここでルークは自分達に不特定多数の視線が集まってきている事に気付いた。

元々目立つピオニーと一緒にいるとよく注目される。
それにはルークも慣れてしまったが、すれ違い様に振り返っていく女性達のきらきらした視線はまた別物だ。

「くそ…なんかムカつくな…」
「ん?どうしたルーク。疲れたなら寄り掛かっていいぞ」

人の多さに気分を害したと思ったのか、ピオニーは両手を広げる仕草をする。

「い、いえ…平気です…っ」

多少見当違いの言動だったが、その心遣いは素直に嬉しいと思えた。
もしここが公衆の面前でなければその腕の中に飛び込みたいと思ったのは秘密だ。
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