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□ゆっくりととけていく
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ケテルブルクにある、ピオニーが幼少の頃過ごした屋敷に休暇で遊びに来ていた2人。

その日、昼ごろから一人出かけていたルークは、夕方近くにへとへとになって帰ってきた。

* * *

バタン、と乱雑に扉が開いてバタバタと慌ただしく室内に足音が響く。
暖炉の前まできてそれは止んだ。

「う〜さみぃーっ…」

今日の内に何度呟いたか分からないその言葉は呪文の様に繰り返される。
脱いだコートとマフラーは適当にその辺に放り投げられた。
そして、すぐさま凍えた指先を暖炉へとかざす。
冷えきった肌に暖炉の火がチクチクと刺さってむず痒い。

と、ここまできて、先程からこの室内にいながら、今までのいきさつを黙って見守っていた人物がようやく声を発した。

「鼻の頭まで真っ赤だぞ」

からかうようなその口調と押し殺した笑い声に、本人は至って真面目だったのでカチンときてしまう。

「大変だったろう。広場の雪かきは」

雪の多いこの地方では、毎年定期的に行われているらしい雪かきという行為。
それが、人手が足りないからと手伝いを頼まれたのは今朝の事。
暇を持て余していたルークがそれに駆り出され、ピオニーは少し風邪気味だったという理由で免除されていた。

作業自体は至って地味なものだが、これがなかなかに重労働で骨が折れる。

「陛下っ!人事だと思って、笑わないで下さい!」

ベッドに腰掛け、悠々と本を読んでいるピオニーをルークは真っ赤になって睨みつけた。
普段と違う、眼鏡をかけたその姿に、ついドキッとしてしまった…なんて事は、ない筈だ。
そんな事すらお見通しの様に、笑いを堪える恋人の姿に憎らしささえ覚える。

「そうか?‥だが、まずは、何か俺に言う事があるだろう。その後でいくらでも聞いてやるぞ」

「〜〜〜っ、‥それは、そうですけど‥。でも、それってお互い様ですよね?」

文句は山の様にあるけれど、それを口にするとキリがないので、ここらで甘くなってみる事にした。

「ただいま」

「おかえり」

脱ぎ散らかしたコートの端についていた雪の結晶が、室内の暖かな空気と交ざって溶けていった。


end.

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