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□ひとつぶのしずくが
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降り続いていた雨が小降りになり、空全体を覆っていた雲の合間から光が漏れ出した。
「あ。陛下、見て下さい」
窓の外を指差すルークの表情が嬉しそうに輝く。
ペンを動かす手を止め、ピオニーは窓の外に目をやった。
「虹、か…」
虹自体この土地ではそう珍しいものではない。
むしろ水の途切れる事のないこの街では、見慣れた風景の一つであるそれ。
普段なら何の興味も示さない様なものだが。
ルークもこの地に移り住む様になってからというもの、今まで幾度となくそれを目にしている。
「よく飽きないな」
するとルークはまた笑顔を零す。
子供の様な純粋な心を未だ持ち続ける青年に、こうしていつも気付かされるのだ。
それは、かつて自分も持っていたものだと。
「よおっし!終了」
「じゃあ、出掛けましょう!」
机にペンを叩き付けて席を立つ。
その音を聞いてルークは待ちわびたとでもいうように、ピオニーの側へと寄ってくる。
ご褒美だと言わんばかりにわしゃわしゃと髪を撫で、ルークの片手を握った。
もう一つの手には傘を持たせて。
「でも、もうすぐ止みそうですね」
「気の利かん雨雲だな。そんなに俺らの幸せが妬ましいのか、全く」
少し残業そうなルークの手を引き、冗談混じりにピオニーが笑う。
雨はますます勢いを弱め、閉じたままの傘を手に歩く、恋人達を祝福するかのように鮮やかな虹が一つ。
end.