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□こぼれおちた
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どうしても2人で行きたいというピオニーの申し出に、無理を言って休暇をもらって来たケテルブルクのスパ。
の、洗い場。

「ルーク、背中流してやろうか?」
「え、えっと…でも、それは」

せっかくのご好意は有り難いと思うが、皇帝陛下にそんな事をさせるのは果たしてどうか。

ルークがそんな事を考えているとピオニーはスポンジをかっさらっていってしまう。

「いいから、遠慮するな。ホレ!」

あっちを向け、と指差されルークは「じゃあ、お願いします」と一声かけてピオニーに背を向けた。

「傷だらけだな」

泡がついた指が背中を滑る。
ルークはくすぐったかったが我慢した。

すでに塞がってはいるが、消えずに残っている闘いでの傷跡。

世界が平和になった今となっては、これ以上傷が増える事はないと思うが、この跡が消える訳ではない。

「痛くはないか?」

その中でも一際目立つ傷跡をなぞりながらピオニーは聞いた。
おそらく相当深いものだったのだろう。

「これ、ですか?もうずっと前ですよ。傷自体はナタリアに癒してもらったし、平気です」

くすぐったさに身を捩りながら、ルークは笑う。

その笑顔がピオニーの心に、なんとも言えない感情を巻き起こす。

「ん、終わり」
「あ、ありがとうごさいます…」

ザッと湯で流せば、泡が流れ落ち、それなりに引き締まった裸体が現われる。

ピオニーはその背中に噛み付く勢いで抱きついた。

「へっ?あ、あの…陛下っ?」

その衝撃で前屈みになりながらも、後ろを振り返る。

なにがなんだか良く分からなかったが、後ろに感じる熱になんとなく安心出来て、ルークはほぅと息を吐いた。


「生きて帰ってくれて本当によかった」

その囁きはルークの中に確かな熱を宿して落ちていった。



end.

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