PxL
□こぼれおちた
1ページ/1ページ
どうしても2人で行きたいというピオニーの申し出に、無理を言って休暇をもらって来たケテルブルクのスパ。
の、洗い場。
「ルーク、背中流してやろうか?」
「え、えっと…でも、それは」
せっかくのご好意は有り難いと思うが、皇帝陛下にそんな事をさせるのは果たしてどうか。
ルークがそんな事を考えているとピオニーはスポンジをかっさらっていってしまう。
「いいから、遠慮するな。ホレ!」
あっちを向け、と指差されルークは「じゃあ、お願いします」と一声かけてピオニーに背を向けた。
「傷だらけだな」
泡がついた指が背中を滑る。
ルークはくすぐったかったが我慢した。
すでに塞がってはいるが、消えずに残っている闘いでの傷跡。
世界が平和になった今となっては、これ以上傷が増える事はないと思うが、この跡が消える訳ではない。
「痛くはないか?」
その中でも一際目立つ傷跡をなぞりながらピオニーは聞いた。
おそらく相当深いものだったのだろう。
「これ、ですか?もうずっと前ですよ。傷自体はナタリアに癒してもらったし、平気です」
くすぐったさに身を捩りながら、ルークは笑う。
その笑顔がピオニーの心に、なんとも言えない感情を巻き起こす。
「ん、終わり」
「あ、ありがとうごさいます…」
ザッと湯で流せば、泡が流れ落ち、それなりに引き締まった裸体が現われる。
ピオニーはその背中に噛み付く勢いで抱きついた。
「へっ?あ、あの…陛下っ?」
その衝撃で前屈みになりながらも、後ろを振り返る。
なにがなんだか良く分からなかったが、後ろに感じる熱になんとなく安心出来て、ルークはほぅと息を吐いた。
「生きて帰ってくれて本当によかった」
その囁きはルークの中に確かな熱を宿して落ちていった。
end.