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□おもいでとなる
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――そして、時は来た。

「陛下…いってきます」

やっとの思いで出したであろうその言葉には、子供が抱くあらゆる感情が込められている気がした。

ピオニーはうつむいているルークの顔を上げさせて、その瞳を覗き込む。

「………」
「………」

何も言葉が出て来ない。

行くな、とも。
行って来い、とも。

その代わりにピオニーはルークの身体を思い切り抱き締めた。

このまま閉じ込めてしまうかのように。

そうできればいいのに。
そんな己の醜い感情をルークに悟られないように、ピオニーは心の中で嘲笑った。

「陛下…っ」

苦しかったのか、腕の中のルークが身動いだ。

「ん?」

力を少し緩めるとルークが腕を伸ばしてきて、ピオニーの背へと回した。


「俺、もっと…陛下と一緒にいたかった…」

ピオニーの肩口に顔を埋めたまま、ポツリと呟くルーク。
ピオニーは黙ってそれに耳を傾けた。

「一度、一緒にケテルブルクへ行ってみたかったです。それで、スパに行ったり、陛下が子供の頃、好きだった場所とか案内してもらったりして…」

言い様のない感情がピオニーの心に渦巻く。



「なんだ、そんな事か。この問題が片付けば、俺も休暇が取れるらしいからな。そうすりゃ、いつでもいけるぞ」

だから、

「必ず、帰って来い…!」

待ってる。

その言葉にルークは困った様な顔で、何かを言いかけて止めた。
それでも嬉しそうに笑い、その腕から離れていった。

その後ろ姿をピオニーは、ただ見送るしかなかった。



* * *




そうして、エルドラント上空に光の柱が立ち上り、兵達は歓声を上げた。

その後、ジェイドから全ての報告を受けた。
ジェイドの報告に嘘がない事など、分かりきっている。


それでも、

決して想い出になんかさせない。

まだ全てが終わった訳ではないのだから。
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