PxL

□やさしさが
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< Peony Side >





心は引き裂かれそうなくらい痛むのに、頭は酷く冷静だった。

俺はこの世界の存続とあの子供の命、天秤にかけるつもりか?



聖堂で一人、立たずんでいるその後ろ姿を見つけて、自然と足がそっちに動いた。


俺は、この子供に近付いて何を言おうとしている?


行くな、と頭では警告を鳴らすのに、本能には抗えなくて。


その名を読んで、後ろから強く抱き締めた。

息を飲む音がする。



「すまない……」

紡いだ声は、自分でも呆れるくらい憔悴しきっていた。



「…陛下」


震える肩を強く掴んで振り向かせば、揺れる翡翠の瞳。
その色に吸い寄せられるように顔を寄せると、咄嗟に身を固くする子供。

けれど、おずおずと俺の服を掴むその仕草から拒否ではないと判断して、そのまま相手の唇に自分のそれを重ねた。

緊張を解きほぐすかの様にゆっくりと触れていけば、たっぷりと水を含んだその大きな翡翠と目があった。




酷い事をこの子供に押し付けているのは分かっている。

こんな言葉、口になど出したくもない。




「世界の為に死んでくれ」




その大人のエゴを子供はまっすぐ受け止め、ありがとう、と悲しげに笑った。





end.
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