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□あなたがくれた
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目が覚めると気分が悪かった。

寝起きの格好のままベッドから抜け出して、宿屋の個室の窓を開ける。

そこから流れ込む空気を肺いっぱいに吸い込んで、溜まった空気を吐き出す。

外を眺めると刻は早かったせいか、通りはまだ薄暗く人通りもない。


誰もいない部屋の中で一人でいると、なんだか悶々としてしまって、そんな自分が余計に嫌になってくる。

無意識の内に溜め息が漏れた。


最近、ふとした時に思い出してしまうのはあの人の事。


きっと、こんな感傷的な気持ちになるのは、あんな夢見ちまったせいだ‥

「くそ…、だせぇな」

顔を手で覆うと手の平に濡れた感触。

…涙?

自分が泣いていた事に気付いてなくて、
意識してしまうとそれが新たな雫を生み、目尻から溢れて止まらなくなる。

「っ…!」


何度も何度も、今まで幾度となく見てきた、あの夢。
忘れる事なんかきっと一生出来ない。
あの時の‥



「……はぁ、」

しばらくそうしていれば幾分か気分も落ち着いてきて、涙で濡れてぐしゃぐしゃになった顔をグイと拳で拭った。



それでも、今日の夢はいつもとちょっと違う、と思えたから。
すごく辛くて、悲しいけれど、どこか温かい夢だった気がする。


――アクゼリュスが消滅したのは俺の責任で。
もちろんみんな俺の事責め立ててきた。

自業自得だけど苦しくて、みんなの歪んだ顔を見るのが辛くて、思わず目を背けてしまう。

けど、自分が招いた事の重大さも分かっているつもりだ。
だから、余計にみんなの声がやたらリアルに頭に響いてくる。

苦しくて、この場から逃げ出したくなって



「下を向くな。ちゃんと前を見ろ。」


その中で、ただ一人

そう言ってくれた人がいた。


その人だけは俺の事責めずに側にいてくれて。
それどころか、「辛かっただろ」って頭撫でてくれた。

それだけの事が、俺には本当に嬉しくて。
‥ほんとは俺みたいな奴がこんな事思うの駄目なのかもしれない。

それでも、その言葉に俺の心がどれだけ軽くなったか。


気付いたら泣いてて、

目が覚めた。


・・・


これは夢だって、分かってるのに
あの人の夢の中の仕草一つ一つが、くっきり頭に焼き付いて離れない。

ここから遠く離れた街にいるあの人の事。




「…なんで、」

誰もいない部屋で一人問えば答えが返ってくる筈もなく、かすれた呟きは大気中に消えた。


あの時本当はいなかった筈なのに

俺は大罪人なのに


それなのに



「…陛下」

ごちゃごちゃに絡まった自分でも把握しきれない想いと一緒に絞り出す様に吐き出した。

すると、自分の中で格段に大きくなっているその存在に、俺の中でドクリと一つ何かが脈打つ。


それが何なのか。

考えればすぐ答えは出てきて。




すごく自分勝手な捉え方かもしれない。

だけど、

「夢の中でぐらい、いいかな…?」


気付いてしまったから。


貴方がくれたこの気持ちは、きっと





end

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