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□あたりまえのように
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いつもと変わらない日常。
存在するのはいつもとは少し違う風景。
その部屋へ入った途端その異変に気付いたジェイドは顔をしかめた。
しかし残念ながら、これは決して珍しい事ではなくて。
「…やってくれましたね。あの、馬鹿皇帝」
ジェイドは空になってしまっている、元は皇帝陛下が仕事をしていたであろうその部屋を一瞥する。
そこから抜け出したと思われる開けっ放しになっている窓から外を見渡し、面倒くさそうに溜め息を吐いた。
「仕方ありませんねぇ」
* * *
「ハハッ、脱出成功!」
人込みに紛れ一人楽しそうに笑う、そのジェイドの災いの根源は商店が立ち並ぶ街路までやってきていた。
ここまでくれば流石に誰にも見つからないだろう。
本日の仕事にも飽き、人の目を盗んで城から抜け出してきたピオニーはブラブラと街中を歩く。
昼時の商店はなかなかに賑わいがあり、その目を楽しませた。
こうして街へ出てくるのも久々だ。
確証はないが、なんとなく、外へ出てくれば何か面白いモノに出会える気がして。
「さァて、これからどうするかな。このナリじゃ、ろくに女性もつかまえられんしな」
一応変装はしているが、何しろ皇帝という身分。
今の所はまだ大丈夫そうだが、おいそれと自分の正体を明かす様な真似は控えるに限る。
一人寂しく散歩を楽しむか。
そう思い噴水広場で歩みを止め、その清々とした水の流れを眺めた。
シンプルな造りのそれは素朴な雰囲気を醸し出していて、それでいて人々の心を引きつける。
この街ではどこでも見掛ける事の出来るありふれた、むしろピオニーにとっては見飽きた存在だが、今日ばかりは何故だかそれに目を奪われた。
まるで自分の中にある汚れた感情すら溶かしてくれる様な鮮やかなその色合いに。
「…アレ?もしかして、陛下…ですよね?」
後ろから声をかけられ一瞬ギクリと身体震えるピオニー。
見つかっちまったか、仕方ない。今日のかくれんぼはこれで終しまいか。
諦めて城に戻るかと肩を落とし振り向いた瞬間、自分に声をかけた存在。
それが、今、結構自分が会いたいと思っていた存在だった事にピオニーは驚いた。
「ルーク、よう。まさかこんな所で会うとはな、予想もしてなかったぜ」
「そうですね。…俺もまさか、こんな場所で陛下を見つけられるとは思いませんでした。」
苦笑しながら陛下の方へ歩み寄ってくるルーク。
その表情には少し疲労が見える気がする。
「どうした?こんな場所で。他の奴らは何してるんだ?」
「え〜っと…俺は、ちょっと…、陛下こそ何してたんですか?」
言葉を濁すルークに陛下はまぁいいか、と先に自分の事を話してやる事にする。
「俺はな、まぁちょっとばかり自分探しの旅に来たワケだ」
ルークはキョトンとした顔をして、その後「なんですか、それ?」と首を傾げた。
「まぁ…そんな事よりルーク、お前よく俺だと分かったな。この変装は自分でもうまくいったと思ってたのになぁ」
その言葉にルークは軽く笑う。
「…そりゃ、分かりますよ。独特のオーラというか…、その堂々とした空気が『あぁ陛下だな』って。それに…」
言いかけてルークはハッと我にかえった様に止めた。
「…なんだ?途中で止めるなよ。気になるだろ。ホラ、言え!」
せかされて口ごもるルークは少し照れた様な困った様な口振りで。
「…キレイな金髪だったんで、本当はすぐ陛下だって分かったんですけど、なんだか考え事してたみたいで、声少しかけ辛いかなって思って」
思いがけないルークの言葉にピオニーは目を見開いた。
そこまで知られていたとはな。