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□ホットチョコレート
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――夜、ベッドに向かおうとする前に手渡されたそれ。愛用のカップに注がれたホットチョコレート。時々眠れない夜なんかに、いつも陛下が淹れてくれるものだ。
顔を近づけてすん、と鼻を鳴らせば、香ばしくて少しほろ苦いカカオの香りが肺を満たしていく。カップ越しに伝わる心地よい熱に、ほっと息を吐いた。

「熱いぞ、気をつけろ」

ありがとうございます、とお礼を言い、ほかほかと美味しそうに湯気を立てているそれを早く味わいたくて一口含んでみる。忠告通り熱い液体が舌に触れて、慌てて口元からカップを離した。猫舌気味な俺には、出来立てカップの中身は少し熱すぎた。
だから言っただろう、と陛下が苦笑する。

「おいで」

ソファーにどっかと腰を降ろした陛下が手招きをする。片手にカップを持ったまま、陛下の傍まで歩いて行くと、ポンポンと膝を叩かれる。座れ、という意味だと分かってはいるけれど、気恥ずかしくて戸惑っていると、促す様に手を引かれた。向かい合う形で陛下の膝の間に収まる。

間近に感じる、俺だけに向けられた温かな眼差しと無邪気な笑み。しかし、それでいて、男臭さを感じさせる表情にドキリとする。大人の男性の色気とでもいうのだろうか。いやらしさとはまた別のそれにかあ、と顔が熱くなる。自分もこのくらいの年になればそんな色気が出るのだろうか、とふと思って、全く想像がつかなくて考えるのを止めた。

手に持ったままだったカップの中身をふーふーと冷ましながら少しずつ味わう。喉の奥に流れていくほんのり甘くてほろ苦い液体が、心まで満たしていってくれる様だ。

陛下が作ってくれるホットチョコレート。それはいつも、何か特別な魔法でもかかっているのかのように美味しい。宮廷内で用意されるものなのだから、それなりに高級な素材で作られているのかもしれない。だけど、それ以上に、一国の皇帝が俺のためだけに作ってくれる。ただそれだけで信じられないくらいに美味しい、俺の大好きなものの一つだ。

「俺…好きです…、陛下の、ホットチョコレート」
「そうか…、それは嬉しいが、こっちはどうだ?」

ん? と陛下が形の良い唇をにやりと釣り上げ、顔が近付いてくる。コツリと合わせた額から伝わってくる確かな熱。空色の強い瞳がじっと覗き込んできた。

「す、すきです…」
「ん〜?」

物足りない、とでも言う様に陛下が続きを促してくる。
心臓の音がうるさい。

「……陛下を、愛しています」
「ああ…俺も愛しているぞ」

ルーク、と熱い眼差しで呼ばれすでにゼロに等しかった距離が縮められた。



end.

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