PxL

□使用人の受難
1ページ/2ページ


――どうしてこのタイミングでここへ来てしまったんだろう…。
ガイラルディア=ガラン=ガルディオスは己の余りの不運さに心の底から泣きたくなった。

それはいつもと変わらない穏やかな昼下がりの出来事。いつものように通常の職務(雑用)をこなし、いつものようにブウザギの散歩の時間になったため、己が仕える主――ピオニー9世陛下の自室へと足を運んだのだ。ただそれだけの事だった。本当に運が悪いとしか言いようがない。(もしくは始めからそのように仕組まれていたのだろうか…いや、あながちその説は否定出来ない)
部屋の前で待機していたメイドと軽く挨拶を交わし、ピオニーの私室へと続くドアをノックする。すぐに中から「入れ」とよく通る声がした。室内へ足を踏み入れると、いつもとなんら変わらずブウサギ達が自由きままに室内を歩き回っていた。すでにガイの日常と化したその光景。それに順応してしまっている自分に溜め息を一つ零す。

「散歩の時間ですので、ブウサギ達をお預かり致します」

ガイがそう声掛けをすると、窓際にてソファーに沈み込んだピオニーから「んー」と聞こえる生返事。ガイは部屋の至る所に散らばっているブウサギ達を次々と捕まえ、リードを繋げていく。最後の一匹となった所でその一匹が見つからない事に気付いた。

「よーしよし、いい子だな。お前は」

ふいに耳に届いた声。探し物(ペット)の行方は案外簡単に見つかってしまった。この位置からは死角となっているため確認は出来ないが、今ピオニーの側にいるのが『ルーク』だろう。最近もっぱらピオニーのお気に入りとなっているブウサギルーク。陽当たりの良い窓の近く。そこが『ルーク』お気に入りの場所。そこで二人して日向ぼっこでもしているのだろうと、ガイは窓際のソファーへと歩み寄った。――…のだが、部屋の奥へと足を進める度にガイの中で「何か」違和感を覚え始めた。その正体が明らかになる頃にガイは身体の全機能が停止したようにその場に固まる。
その場で立ち尽くすガイの存在など初めから無いもののように、『ルーク』との対話を楽しんでいるらしいピオニー。(実際はその反応を楽しんでいるのだろう。ニヤリと笑うピオニーと一瞬目があった)

「えらくがっつくじゃねえか。…そんなに美味いか?」
「………」

「ほらほら、こぼしてるぞ。ちゃんと飲め」
「………」

「ふ、もっと欲しいのか?欲張りなヤツめ」
「……っ」

「顔を真っ赤にさせて…、可愛いなルークは」

――わざと、だ。

「…っ陛下!!」

耐えきれずに思わず声を荒げるガイにピオニーはどこまでも楽しげだ。

「なんだ。俺は今、可愛いルークにおやつをやるのに忙しいんだ」
「…でしたら、紛らわしい発言は止めて頂けませんか?」
「何が、どう、紛らわしいというんだ?ガイラルディア」

完全に乗せられた。にやにやといやらしい笑みを向けられ、次の言葉を誘われる。これ以上相手のペースにハマってはいけない。

「陛下、からかうのも程々に…」
「お前は一体、何を想像した?」
「――…!」

聞こえないようにそっと溜め息を吐くガイ。その表情には疲労の影が浮かんでいた。

「〜〜〜ッ、もう結構です!!私はブウサギ達を散歩に連れて行きますので!」

失礼します!とリードに繋がれたブウサギ達を連れて、足早に部屋を出て行くガイ。その場にぽつりと残されたピオニーとルーク。

「まだまだ青いな。…っと、アイツはまだ純情だったか」

少しばかりやり過ぎたか、とおかしそうに笑うピオニーの傍らで、不思議そうに首を傾げるルークの姿があった。

end.

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ