ZxL

□月夜の訪問者
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――ふわり、と。
夜のひんやりとした風と共に入ってきたそれが、カーテンを揺らした。
暗闇の中で、ぼんやりとした思考でゼロスは目を凝らした。月明かりに照らされた、その正体を探る。
月の光とはまた別のやわらかな光にゼロスは目を擦った。
風に揺れるカーテンが先程とは違う波を立てる。

ふわり、と窓辺に降り立った天使。
すらりとした足が微かな物音を立てて部屋の床へと着き、ゼロスはようやくその人物の特定に至る。

「……ハニー?」
ゼロスの旅仲間でパートナーでもある、ロイド・アーヴィング――であることは確かなのだが…。

「なんで、羽出してんの?」
寝起きで頭の回らないゼロスの第一声は、まず、恋人の風貌についてだった。
窓から侵入を果たした、ロイドの背にはキラキラと輝く天使の羽が生えている。
こんな時間にどうした?とか、どうして窓から入ってきたんだ?とか聞きたいことは他にもある筈なのに、見慣れない光景に、ゼロスはうまく言葉を紡げずにいた。
そして、目の前に広がる青に魅入られている自分に気付く。

まじまじとその姿を見つめていると、ゼロスの言いたい事を理解したのか、ロイドは静かに口を開いた。
「……お前に会いたくなって」
その言葉に今度こそゼロスは目を見開く。
「こんな時間だし、玄関から入る方が迷惑だろ」
だから窓から入る事にした。なんて。さらりと言ってのけるロイドの表情が意外にも赤く染まっているのが、暗闇の中でもはっきりと分かった。
ふ…、とゼロスの口元に笑みが溢れる。
淡く光輝く羽へと手を伸ばした。
「いらっしゃい、……ロイドくん」


end.

2012.6.1

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