ZxL

□祭りの夜に
1ページ/1ページ

夕暮れ時。窓枠に寄り掛かり、鼻先が付くのではないかと思うくらい間近に迫った窓ガラスに吐き出された息。途端に白い影を映し出す薄いガラスの向こう側では一定のリズムを刻みながら雨音が鳴り響いていた。
今朝から降り出した雨は、夕方近くになっても止むことなく地面を濡らし続けている。

「この分じゃ花火大会は中止、だな」

――カタリ、と音を立てて椅子から立ち上がったゼロスが、一心不乱に窓の外を眺めているロイドの元へ後ろから近寄ってくる。窓枠にかけていた手にそっと重ねられる手。

「…楽しみにしてたのに…」

つまらなそうに口を尖らせたロイドがもう一度小さく息を吐き出した。
今日は年に一回テセアラで毎年恒例の夏祭りの日だ。テセアラ内でも有名なイベントの一つで、この日になるとメルトキオの中心にある広場がガラリと姿を変える。普段は静かで住民達の休息や娯楽等に使われている広場には、各地方の商人達が集まり屋台を構える。そこでは珍しい食べ物や飲み物を売っていたり、ちょっとした催し物で遊んだりもできる。そして夜にはメインイベントの花火大会があり、メルトキオ上空に打ち上げた花火が美しく大きな花を咲かせるのだ。
ロイドが育ったシルヴァラントにはその様な習慣がなく、また本物の花火を見た事がなかったロイドは今日のイベントを心待ちにしていたのだ。
しかしイベント当日に降り出した雨。夕方までに止んでくれる事を微かに期待していたロイドだったが、その想いも虚しく雨の音に掻き消されている。

「打ち上げ…見たかったのになあ」

何度目かの溜め息と共に残念そうに呟くロイド。今日のイベントの話をロイドに教えてから、どれほど彼が今日を楽しみにしていたのか知っていたゼロスだが、流石に天気ばかりはどうしようもできない。

「ハニー、諦めなって。祭りはまた来年もあるんだし……って、あ!」

ロイドを慰めようとしたゼロスが、何かを思い付いた顔になって「ちょっと待ってな」と部屋を出て行く。しばらくして戻ってきたゼロスの手にあったのは黒っぽい球状のもの。

「それ…何だ?」
「ロイドくん打ち上げ花火見たいんでしょ?」

ゼロスに促されるまま屋敷の庭へと向かうロイド。外の雨は少し小降りになってきたのか、空は少し明るくなってきていた。
雨に濡れない様に球を手軽な箱の中に詰める。ロイドはその手元を覗き込んだ。球状の塊の一部からは紐のようなものが付き出していた。

「それ、火薬か?」
「御名答〜。前にミズホに寄った時にしいなに貰ったんだよ。アイツの失敗作をな」
「失敗作?」
「そ。なんでも里の侵入者撃退用に作られた罠らしいぜ。んで、またそれがアイツ火薬の調合間違えたらしくてよ。使えねーってんで貰ってきたワケだ」

話しながらも着々と作業を進めていくゼロス。その瞳は悪戯を考え付いた子供のようにキラキラと輝いていた。

「ま、見てな」

その場から離れるように言われて、火が点けられる。紐の先から徐々に熱が伝い中心へと向かう。ゼロスもその場から離れロイドの隣りへと並んだ。

「…つかねぇな。不発か?」

やっぱりしいなの作ったものは当てにならないよなあ。なんて軽口を叩きながら火薬の方へと近付こうとして。――ぐい、と腕を引っ張られ思わず後ろへのけ反った。慌てて体勢を持ち直し振り返る。

「ロイドくん?」
「ゼロスっ!」

ロイドが指差す、火薬を入れた箱の方を見直した。その瞬間、ポン!と辺りに音が響いたと思えば次いで飛び出す火花。それは二人の目の前で小さな花を咲かせて静かに消えていった。打ち上がった花火と同じくらい目を輝かせるロイド。掴んだままだったゼロスの腕に自然な仕草で己の腕を絡めた。

「花火って…キレーだな」
「でも小規模過ぎっしょ。本物はもっと迫力あるぜ〜!」

無邪気に笑うロイドにつられてゼロスの顔にも笑みが零れる。
ふと空を仰ぐと先ほどまで空全体を覆っていた雨雲がいつの間にか姿をくらましていた。

「雨…上がりそうだな」

すでに小止みになった空を見上げてロイドが呟く。

「じゃ、行こっか。ハニー支度して」
「え、」
「祭り行きたいんだろ?」

パッと顔を上げ嬉しそうな顔つきになるロイド。返事は勿論初めから分かりきっていて。浴衣の着付けをしてもらう為に、セバスチャンを呼ぶゼロスの声も自然と明るくなる。
繋がれた腕はそのままにして。

end.

* *

「ゼロロイネタ何かないかな〜?」って言ってたらししあさんが「夏だし祭りとかどうですか」とネタ提供してくれたんで書いてみた祭りネタ。思ったように書けなかったけどすごく喜んでもらえて嬉しかったので、ししあさんに捧げます。ありがとうございました〜!

2011.7.31

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ