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□コトノハ
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見られている。さっきからもうずっと。剣の手入れを始める前から、背中に刺さる視線が消えてくれない。それは射るような鋭さを持ちながらも何かを懇願する様な眼だ。それでもしばらくは気付かないふりをして剣を磨く事だけに意識を集中させる。だが、一向に止まない無言の圧力に、元より余り気の長くないロイドはとうとう白旗を上げた。

「何なんだよ?さっきから。言いたい事があるならハッキリ言えって」

剣を磨いていた手を休めベッドの上に浅く腰掛けていたロイドがハァー、と長い溜め息を吐いた。振り返るとそこには同じくベッドの上に寝転んだゼロスが、先程感じた通りの微妙な視線をこちらに向けていた。

「なぁ、ロイドくん…。俺さま達って付き合ってんだよな?」
「何だよ、突然…」

「そんなの今更だろ」とロイドは視線を剣に戻し刃を鞘に納めながら言うと「わかってないねぇ」とからかうような口調と共にキシリとベッドのスプリングが音を立て、ゼロスが動く気配がした。そしてすぐ後に背中に感じる温もり。

「じゃあ、俺さまのどこが好きなワケ〜?」

ぎゅ、と身体の前に回された腕。次第に深く、濃くなっていくゼロスの熱と香りはロイドが考えあぐねている間に全身に拡がっていく。それはまるで中毒のようにロイド自身を侵食していく。ふわふわと首もとで揺れるゼロスの髪がくすぐったい。咄嗟にロイドは目の前の赤いそれを掴んだ。

「……、…髪」

柔らかくしなやかな髪の感触を十分に楽しんだ後、ロイドはその一房を口許まで持っていって接吻けた――まるでとても大切なものを扱うように。

髪から手を離して頭だけ動かして後ろの様子を確認すると、ぽかんと口を開けたゼロスと目が合った。ロイドは思わず吹き出してしまう。つられてゼロスも一瞬頬を弛めるが、すぐにまた意地悪そうな顔に変わって。

「…髪だけぇ?」

不服そうな声と共に降って来るのはそんな台詞。顔を覗き込まれて指で頬をつつかれる。抱き込まれた腕の力がより一層強くなる。どうやらロイドが答えるまで離してくれる気はないらしい。

「…何が不安なんだ?」

その一言にゼロスの動きがピタリと止まる。縋るように抱き付いていた腕の力が緩んだ隙に、ロイドは素早く身体を回転させ前から抱き締めた。あまりの早業に目を見開くゼロス。おずおずとロイドの背に手を回してくる。自分からは常に遠慮なしに抱き付いてくるくせに、自分が抱き締められるのは慣れてない。そんなゼロスに愛しさを募らせる。そういう所がロイドが好きなゼロスの一部だったりする。口に出してはやらないけど。

「…ロイド、俺さまの事…愛してる?」
「当たり前だろ。…じゃなきゃ付き合ったりなんてするかよ」

至近距離で真剣な眼差しに捉えられ、気恥ずかしさにロイドはゼロスの肩口に顔を埋めた。しかしそれは許さないとばかりに両手で頬を掴まれ元の位置に戻される。

「言ってよ、ハニー」

何を、とは聞かない。頬を包むゼロスの手から、密着した身体から伝わる体温が十分にそれを物語っていたから。

「愛してるよ…ゼロス」


end.

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