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□答えはすぐそこにあったのに
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最初はただの芝居だった。
仲が良いと見せかける為の欺き。
後ろから体重をかけて、抱き付いて、俺の存在を、熱をここに刻み込む。決して裏切る事はないんだぞ、と。
そうしてことある毎にロイドに抱き付いている内に、なにやら別の感情が芽生え始めているのに気付いた。
初めは男に抱き付くなんて冗談じゃねぇとすら思っていたのに。
近ごろなんかお子様体温のロイドの熱に触れ、安心までしている自分がいる。
これには流石に焦った。
男の身体なんて柔らかくもねぇし、女の子みたいにイイ匂いがする訳もねぇ。
認めるのが怖かった。
認めちまったら、そこで全てが崩れてしまう気がしたから。
この俺が、男に…よりにもよってロイドに本気で惚れちまうなんて…。
「ゼロス」
意外に考え込んじまってたみたいだ。ロイドが怪訝そうな顔でこっちを覗いている。
「ん〜?なーによ、ロイドくん。ひょっとして俺さまに構って欲しかったとか?」
動揺を悟られないようにいつもの調子で、仲間内では下品と評される笑みで返す。するとロイドの眉間に寄せられた皺がさらに深くなった。
「お前…何か隠してるだろ」
「…は」
必死に保とうとした平常心はその一言であっさりと破られ、我ながら情けない音になって空気中に交じった。
…言えるかよ。
「なんの事かな〜?俺さま意味分かんな…」
「ほら、そうやって目逸らすだろ。ちゃんと俺の目見て言えよ」
「………」
冗談じゃねえ。
こんな事言おうもんなら、今の関係がどうなるかぐらい安易に予想がつく。そうなれば俺はもうここにはいられない。スパイとしてこのパーティーに身を寄せている以上、極力その事態は避けたい。
…それに。
浮かんできた考えをかき消すようにブンブンと頭を振る。ロイドにはそれが俺からの拒絶と受け止めたようで、苦虫を噛み潰したような顔をしている。そうさせたのは俺だっていうのに、ロイドには傷付いて欲しくもなくて。我ながら自分勝手だと思う。
「ロイド」
唇を噛み締め、拳を震わせるロイド。そこからは怒りと哀しみの色が伺える。俯いた顔を上げようと腕を伸ばすと、ビクッと肩を揺らして俺の手から逃れようと距離を置く。
チッと舌打ちをして、逃げようとするロイドの腕を強引に掴む。
――これ以上は駄目だ。
頭の中で警告が響く。それでももう止まれそうになかった。
「やっ…!」
ロイドの口から拒絶の言葉が漏れる前にその唇を塞いだ。己のそれによって。ロイドの瞳が大きく見開かれる。
合わせるだけのそれから、ゆっくりと深い口付けへと変えていく。
「ん、」と接吻の合間に漏れるくぐもった声。
想像してたよりも…艶があるというか、なんというか。やけに色気があるのだ。
思った以上の刺激に夢中になってロイドの唇の感覚を味わう。
しばらく堪能してから「はぁ…」と溜め息を吐いて、ロイドを解放した。
「…ゼロス」
顔を真っ赤にさせて息を荒げてはいるが、その表情に不快感の現れはない…ように見える。見上げてくる瞳にも先程のような拒絶の色はない。
もう逃げられない。
ここまで来て覚悟を決めた。
先程頭の中に浮かんでかき消した想いがさらに強くなって沸き出てくる。それは痛みを伴ってツキリと胸を打った。
――ロイドと離れたくない…!
いつの間にか俺のポジションになってしまった、ロイドの後ろ側。世界の命運なんていうとんでもなく大きな荷物を背負わされた、その小さな背中。何度打ちひしがれてもまた起き上がり、真っ直ぐに前を向いて歩く。
その背中に何度、近付きたいと思ったか。その度に「自分には無理」とそれを理性で抑えつけてきたか。本当に欺いてきたのは自分の感情だ。
「…どうやら、俺…お前の事が好きみたいだわ」
「うん…知ってる。俺も好きだぜ」その言葉が身体中に浸透する前に、その小さな身体を腕の中に閉じ込めた。
end.