ZxL

□弱音と本音
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ゼロスが風邪をひいた。
珍しい、どころか一緒に旅に出てから多分初めての事だと思う。
少なくとも、こんな風に看病が必要な位、弱ったゼロスの姿なんて見た事がない。
いつだってコイツは大抵の事なら自分一人で解決してしまうから。





「そういえば…昔から言うよな」


ゼロスの額にある、熱で温まったタオルを氷水が入った洗面器に突っ込む。頃合を見て冷えたタオルを取り出し、ゼロスの額に乗っけた。何度目かのそれを繰り返しながら、ふと頭によぎった事を呟く。
熱は結構ある筈なのに、ゼロスはなかなか寝付けないでいた。
毛布の中から唸り声と共に億劫そうな返事が返ってきた。

「…何がよ?」
「“馬鹿は風邪ひく”…って。それってゼロスの事だよな」
「………ハニーそれ、わざとなワケ?」
「?、何がだ?」

ゼロスの言ってる意味が分からなくて首を捻ると、「もういい…」と呆れた様に盛大な溜め息をつかれた。
それどころか「ロイドくんのおかげで頭痛くなってきたわ」なんて言うもんだから、流石にムッときてしまう。
だけど、相手は病人だ。と、込み上げてくるそれをなんとか押し留めるのに成功する。


「…けど、ほんとに珍しいよな。ゼロスが風邪ひくなんて…。明日は雪かもな!」

にしし…と、冗談交じりに笑ってみせると、ゼロスはほんの一瞬…難しい表情をしてチラリと窓の外に目をやった。
ゼロス?と声をかけてみてもその表情は固い。

「その雪のおかげで、こっちはこんなんなってんでしょーが…。ったく、明日こそは止んで欲しいもんだぜ…」

今、俺たちはフラノールに滞在している。
初めての雪にはしゃぐ俺やジーニアスとは逆に、ゼロスはあまり気分が良くなさそうだったから。
その時は、寒いのが苦手なのかな。なんて軽い気持ちで考えていたけど。
実際、「寒い!」「死にそー!」なんて騒いでたし。
仕舞いには「ロイドくん温めて」なんて。
今思うとあれはだいぶ無理して笑ってた気がするんだ。


「ゼロスって、雪…嫌いみたいだけど、なんか辛い事でもあったのか?」

だったらごめんな。知らなかったとはいえ、お前の気持ち考えないではしゃいだりして。そう謝ると、ゼロスの目が驚いた様に見開かれて、それからバツが悪そうに逸らされた。

「別に……、そんなんじゃねーよ。…ただ、ガキの頃は雪が降り出すと決まって熱出してたから…あんま好きじゃねーの。それだけ」

だから、ロイドくんが気にする事ねぇんだよ。と、毛布の中から力なく伸ばされた手にぽんぽんと頭を叩かれる。
その手は普段触られる時よりも熱くて、ゼロスが今苦しんでるのが伝わってくる。


「お前って…、普段余計な事ばっかしゃべってて、肝心な事はちっとも話そうとしないけどさ…」

「よ、余計な…って…、ロイドくん…」

「辛い事とか悲しい事があった時、誰かに話すと楽になるって、先生言ってた。…俺に話して解決できるかは分かんないけど…」

伝えたい気持ちをゆっくりと頭の中で整理しながら言葉を選ぶ。

「でも…もし、話してくれたら、一緒に悩むぐらいはできるからさ」

「ロイド…」

「一人で悩むより二人で悩んだ方が、何か良い考えが浮かぶかもしれないだろ?」

「………」

俺がそう言うと、ゼロスは黙ったまま、一度引っ込めた手を差し伸べてきた。
シーツの上に置いていた俺の手にそっと重ねられた。
不思議に思って名前を呼ぶと、そこには今まで見た事がない優しい目をしたゼロスの顔があった。



「…も、駄目…、俺…寝るわ…」

ぐったりとした声音で告げられて、ハッと我に返る。
呼吸は速く苦しそうだ。

「あ…ああ、そうだよな…。ゆっくり休めよ」

立ち上がろうとすると重ねられた手にぎゅっと力が込められる。

「…ロイド、…ここにいて…」


――コイツは、ずっと寂しかったんだな…。

ふいにそんな考えが頭をよぎった。

熱のせいか、いつになく素直なゼロスについ笑みが零れる。

「大丈夫、お前が眠るまでちゃんとここにいてやるよ…」


眠りに落ちる寸前、ゼロスの目元に光るものを見た、気がした。


end.

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