ZxL

□新たな傷口
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「ロイド、ちょっと顔かしな」

戦闘後、ゼロスに呼ばれて振り返ってみれば、何時に無く真面目な顔があった。…というか、怒っているようにも見える。

「…なんだよ?」

多少手荒に腕を引っ張られたせいで、さっき戦闘中に負った傷がズキリと疼いた。
“傷”と言ってもそこまで深刻なものではなく、かすり傷程度のものだったが、そこを強く掴まれれば話は別だ。
痛みに思わず眉を顰めて、「なにするんだよ」とゼロスを睨んだ。
するとそこには予想外に、呆れた様な困った様な微妙な表情をしたゼロスの顔があった。

「ファーストエイド」

短い詠唱の後、ゼロスが治癒術をかけてくれる。

「…あ。サンキュ」

てっきり文句でも言われるものかと身構えていたから、なんだか拍子抜けしてしまう。
傷の手当てをしてくれた事に対してのお礼は言ったが、そこにはなんとも微妙な空気が漂っている。
おそるおそる相手の顔を伺うと、まだ難しい顔をしたままだ。

なんとなく自分からは切り出し辛くて黙っていると、痺れを切らしたゼロスが長い溜め息を吐いた。

「……ロイドくん。なんで俺さまが怒ってるか分かってる?」

「みんなの指示を聞かずに、一人で前に出過ぎたせいだろ?…悪かったと思ってるよ。次は気をつける」

自分でも本当に悪かったなと反省はしていたので素直に「ごめん」と謝ると、ゼロス自身を纏っていた空気がほんの少し和らいだ気がした。

「…それだけじゃねーよ。普段からお前は自分の事に無頓着すぎんだよ」

ゼロスの声色は落ち着いていて、さっきまでのトゲトゲした感じもない。
けれどどこか歯切れが悪い。そんな自分自身に苛ついているのかもしれない。

「無茶し過ぎなんだよ、ロイドは…。戦闘中周りの奴らに気を配るように、ちっとは自分にも気を使えよ」

ぶっきらぼうに。けれど本気で自分を心配してくれてるのが伝わってきて、怒られてるというのに嬉しいなんて思ってしまう。
…だけど。

「…なんだ。心配してくれてたのか?」

照れ隠しにそんな言葉が出てしまう。

「そりゃ、心配するでしょーよ…。ロイドくんは俺さまの…親友、なんだし?」

なんだか妙な間があるなと思ったが、気にしない事にする。
それから身体と心のどこかがチクリと痛んだ気がするけど、ついでにそれも。
ゼロスに癒して貰った傷はもうなんてことないはずなのに。

「なんか…俺、ゼロスがかけてくれる治癒術好きなんだよな」

そう言うとゼロスはキョトンとした顔でこっちを見てくる。

「…なんで?俺さまの回復魔法なんか、リフィルさまと比べたら全然大した事ないぜ?」

意味が分からない。といった表情のゼロス。
効果云々を言った訳じゃないんだけど。なんて思いながら、なんて説明したもんかと頭を捻る。

「そりゃ回復効果とか考えたら先生の方がいいかもしれないんだけど…。なんか、さ。ゼロスのは、あったかいんだよな。すげー安心する」

心の中に思ってる事をそのまま口に出すと、ゼロスが固まった。

あれ?俺なんかまた怒らせるような事言ったかな?なんてぐるぐると思考を巡らせていると、フリーズしていたゼロスがピクリと肩を動かした。

「……ロイドくん。フツーにそーゆー事言っちゃう?」

下を向いて、手で顔を覆いながら溜め息を吐くゼロスに、ムッとしてしまう。

「…な、なんだよ…?」

顔を上げたゼロスの顔はいつもの揶揄する笑顔ではなく、少し照れた様な困った様な顔だった。

「いや…。お前、すげーよ」




end.

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