宝物

□誰よりも近く
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ゼロイ仲間・闇水桜華の江崎直さんとのコラボ小説です。「続き書いて」とおねだりしたら書いて下さいました〜v冒頭の緑が彩、残りは全てなおさんです!それでは、どうぞ〜






=誰よりも近く=



 ――不快だ。
 馴染みのない強い香水の匂いにロイドは眉をしかめる。この香りは苦手だ。一度身体に染み付いた甘ったるいそれは拭ってもなかなか落ちずに余計にロイドを苛立たせた。
「風呂、入りたい…」
 疲れきった身体を癒すために湯船に浸かりたかったが、今日は安宿の為シャワーしか備えられていない。それでも染み付いた匂いは落ちるだろうと、ロイドは浴室へ向かおうと振り返る。
「――…ッ」
「ロイドくん、」
 そこには明らかに不機嫌の三文字を顔に貼り付けたゼロスがこちらを見据えていた。

 す、と動いた視線が、頭の先からつま先までを撫でるように見つめていく。その眉間に寄った皺は取れることなく、むしろ深く刻まれて、ロイドはついぎゅっと目を閉じる。
「……ロイド」
 ゼロスの不機嫌、には種類がある。といって、気付けるのはロイドくらいのものだろうが。
 怒りを含んだもの、不快を含んだもの、――そして。
「ごめん」
「なんで謝る?」
「すぐ、落としてくる」
 躊躇いまじりの、寂しさを含んだもの。
 ゼロスの横を通り過ぎて、シャワールームへ向かおうとする。すぐにでもこの匂いをかき消したかった。この、不快に似た寂しさは、きっとゼロスが今抱いているものと同じだろう。
「っ?」
 服に、髪に、肌に。放っておけば浸透していくようで、その気持ち悪さに吐き気がする。と、――ふいに掴まれた腕を引き寄せられ、咄嗟に振り返った。
「俺サマがやる」
「え?」
「全部洗い流して、……綺麗にしてやる」
 する、と頬を撫でた手のひらが異常に熱い。笑ったゼロスの表情にぽかんとしたロイドは、引きずられるがままにシャワールームへと歩いていく。
「ちょ、おいっ、わぷっ」
 一人用の狭いシャワールームに二人は入れない。
 さっさとロイドを突っ込んで、手荒に服を脱がしたゼロスは、まだ温まっていない水流を頭から降らせてくる。自分の服が濡れるのも構わず髪から足の先まで水で拭って、やがてそれが湯に変わった頃、背後にあった戸棚に手を伸ばした。
「……なにそれ?」
 手にしていたのは、黒く光沢のある紙袋。金文字でなにか書かれているのは、店の名前だろうか。
 ガサガサと中を漁ったゼロスは、白いチューブ状の物を取り出すと、ふいに顔をあげた。水に濡れた前髪から、ぽたりと水滴が落ちて静寂に響く。見上げてくる視線の奥にある熱に、ぞくっと背筋が震えて、ロイドは咄嗟に手を突っぱねた。
「ま、った!」
「だーめ」
「疲れてる、から!」
「俺サマを怒らせたはにーが悪い。女物の香水なら、まだ許せるぜ? それが男物ときた。移り香が残るほど、そばにいたの?」
 これも、仕事の一端だ。隣町の村長に頼まれて、息子に逢いに行ったにすぎない。
 けれどそう言い訳をしても、知っているゼロスにとってはどうでもいいことなのだろう。どうでもよくて、それでも。
「いたくていたんじゃないって!」
「知ってる」
「だったら、」
「俺心狭いから。許せねぇわ」
 ――ふわ、と近づいた影に、動けなくなる。
 突っぱねた腕を無視して、触れてくる身体。つい力の抜けた腕は、ふたつの身体の間に挟まれた。
 濡れた服の向こう、はりついて気持ちの悪い感触が伝わってくる。びく、と震えた肩を包み込んで、やがてその感触の向こうから、じんわりと伝わってくる熱。
「あ……」
 薄らと開いた唇の間から、吐息が漏れた。
 耳に、唇が触れる。食むようにして撫で、口付けを落とす。
 気付けばロイドは狭いシャワールームの個室の中、ゼロスに抱きしめられていて。無性に、たまらなさがわき上がった。
 濡れた呼吸音が鼓膜を揺さぶる。その度にぴくりと反応してしまって、自分の節操のなさに頬が熱くなる。ふ、と微笑う気配に、ゼロスの髪から香りが漂った。

「……ロイドくんからするのは、俺サマの匂いだけでじゅーぶん」
 
 自己中だ。そう思うのに、この匂いに包まれると安心してしまうのはなぜだろう。
「……うん」
 小さく頷きを返して、そっと目を閉じる。は、と吐きだした空気が湿度のこもった辺りを揺らして、ゼロスの熱を際立たせた。
 くちゃり、と音がする。
「んっ」
 肌の上をぬるついた手が滑り、撫でるように、洗うように這っていく。
「っくそ……! だめだって言ったのに……っ」
「はにーってば単純〜。俺サマに抱きしめられて気ぃ抜けちゃった〜?」
「当たり前だろー!」
 じたばた暴れようにも、すでにホールドされた後では何もかもが遅い。
「ふあ、っぁ……」
「しー。壁薄そうだからな、あっちこっちに聞こえちまうぜ?」
「〜〜〜〜ッ」
 じゃあやめろって。そんな想いをこめて睨みつけた先で、く、と笑ったゼロスは額にキスを落としてくる。
「ん。俺サマの匂いに変わった」
「う……」
 身体を滑るジェルは、ゼロスの大好きな薔薇の香り。いつの間にか身にまとってしまったあの不快な匂いは消え去っていて、目の前の男も自らもむせかえるような花の香りに隠される。
「……、……いっかい」
「ん?」
「一回! 一回したら、寝るぞ!」
 キッ、と睨んだ顔が、火照ってどうしようもない。
 面食らったようにこちらを凝視したゼロスは、ぷはっ、と噴き出すと楽しそうな笑顔を浮かべて、その指先で優しく唇をなぞる。
「おーけー」
「……ゼロス」
「うん? 今度はなんですかー」
 見上げた向こう。
 塗りたくっていたジェルがついたのか、完全に張り付いてしまったゼロスのシャツと、薄ら覗く肌の色。
「……ぬげ」
 ――刹那。
 指先が離れた唇を覆う、熱のありかにめまいがした。



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さーせんwwwwww

さすがにR指定はこう、ね!
自重がちょっとだけ仕事した。うん。
鬼畜でも嫉妬でもありな冒頭だと思ったのですが、
うちのゼロスくんならこうかなぁと……

彩さんに捧げます、こんなものですみません(笑


* * *
私の突発文をこんな素敵な作品に変えてくださったなおさんに感謝です!
ここだけの話…私なら鬼畜かな〜と思ってました^^
ゼロスが洗ってやるってのも同じではあったんですけど…w(くす)
ここまで読んで下さった方、そしてなおさん、ありがとうございました!

2011.07.10


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