宝物
□明日、晴れたら
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船内の一角にある食堂にロイドとゼロスの姿があった。
今日は朝から雨模様。バンエルティア号の頭上にはどんよりと曇った空で覆われている。
本来なら今日は二人で町まで買い出しに出かける予定だったのだ。しかし、あいにくの天気でそれは断念せざるを得なくなっている。
仕方なく船内で過ごす事にした二人は、ティータイムにロックスが作ってくれたおやつを食べに食堂に来ていた。
出かけられなかったのは残念だが、これはこれで悪くないと、嬉しそうにおやつを頬張るロイド。そしてゼロスはその様子を、同じくロックス特製の紅茶を口に運びながら眺めていた。
「ハニー、ここんとこ、クリームついてるぜ」
ゼロスは自分の顔を指差しながら楽しげにそれを指摘してやる。
「ん。どこだ?」
「ココだって、ココ」
その場所が分からずに顔中を彷徨うロイドの手。いい加減焦れてきたゼロスが取ってやろうとロイドの顔に手を伸ばしかける――…よりも僅かに早く、頬についたクリームへとロイドの指が到達した。
「あ、ホントだ。サンキュ、ゼロス」
そのまま舌を出してペロリと舐めとられるそれ。
しばらく口の中に含んだ後、ちゅう、と音を立てて指が離れた。
「………」
その一連の動作の中に、ゼロスは何か別の意味での連想をしてしまい、その場で固まった。
本人の意識とは逆に体温が上昇していき心臓がドクドクと脈打っている。
ロックスの作った生クリームって本当に美味いよな。なんてそんな事を言っているがゼロスの耳には全く入ってこない。
何でもない行為だと分かっているのに、一度意識してしまった身体は制御が効かず…、
――そのまま食堂のテーブルに突っ伏したゼロスが、長い溜め息を吐いた。