宝物

□恋色は二人色
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「うわ!ご馳走だ!」


耳を貫くくらい大きな声で叫んだその言葉には"幸せ"の二文字がありありと見えた。わかりやすくも満面の笑みで美味そうと言った語尾には音符マークが付いている。

目の前にはテーブルいっぱいの料理が広がっていた。オードブルからデザートまで多種のものが鮮やかに並べられている。
もちろん平生がこんな食事というわけではない。寧ろ旅の間などは質素だ。

ならば何故、こんな豪勢な食卓が広がっているのか。それは…。


「うは〜!ここ確か有名なんだろ?こんなとこ用意してたなんて知らなかったぜ!」


今日は僕らが恋人同士になってからちょうど一ヶ月の日だからだ。

店に予約を入れて食事でもしようかと思っていたところ、リッドの方からもそろそろ一ヶ月だなと声をかけてきたのだ。

記念にお祝いしたいと言ってきたのには感動すらしたのに。食べ物に目がいってそれどころではなさそうだ。まぁリッドが覚えているなんて律儀すぎるとは思ったけど。


「キール、早く食べようぜ!」

「ああ…わかった」


早速メインディッシュに手をつけたリッドは掃除機のように料理を吸い込んでいく。相変わらず恐ろしい食欲だ。


「あ〜超美味い!本当サンキューな、キール!こんな美味い料理食べれるとは思わなかった」

「そうだな。美味しかった」

「あんま知らねーけどさ。人気高いらしいじゃん、この店。予約入れんの大変だったろ?」

「構わないさ」


もとよりリッドに喜んでもらうためだけに評判の高いといわれるここの店に何時間も並んで予約を入れたのだ。

他の誰かのためじゃこんな面倒なことはしない。リッドだから。

彼が喜ぶのなら何でもしてあげたい、と。昔からずっと思っていた。…恩返しとは少し違うけれど何か僕から与えるものが欲しかった。まだそんなこと言えるほど大きな人間になってないけど、いつか。

お互い素直になれなくて傷つけ合った時もあったけれど。それでもその傷を治すのは僕の役目なのだと決めている。


「………」

「…?なんだ、リッド。僕の顔に何か…」

「俺、キールのそういうとこけっこう好きだぜ」

「は、」


じっと僕の顔を見つめていたリッドの真剣な瞳が段々と近づいてきて。意味ありげに目を閉じたら唇に温かくて柔らかい感触が。

…え。


「えぇ!?りりり、リッド!?なななっ何…!」

「そんな変なものを見る目で見んなよ。そんなに珍しいかよ、俺からキスすんの」


自分からやってきたくせに真っ赤になっているリッドは少し拗ねたように口を尖らす。

その顔可愛い…じゃなくて!
リッドが、リッドから僕にこんなことするなんて…!


「め、珍しいも何も初めてだ!」

「あ、キール、顔真っ赤だぜ」

「茶化すな!リッドだってそうだぞ!」

「そんなことねぇよ。キール赤色人種だな」

「そんなものない!大体リッドがいきなり、き、キスなんかするからじゃないか!」


付き合ってから一度も。僕が求めたらそれにリッドが答えるといった感じで。リッドからしてくることなんてなかった。

驚きを隠せないままリッドを窺い見る。すると、ヘラヘラ笑っていた顔が急に真剣なものに変わった。


「…したらダメかよ?」

「そんなこと言ってない!…ただいつも僕からだったから驚いたんだ」

「じゃあいいだろ」


せっかくの記念日なんだ。キールにも今日が特別な日になるようにしたかったから。
そう言ってリッドは照れ隠しにぶっきらぼうに笑った。


…安心した。そしてリッドも今日を大切な日にしたいと思ってくれていることが嬉しかった。



「リッド…その…、もう一回…」

「やだ」

「え!?」


恥を忍んで言った僕の願いは即答で却下された。…ひ…酷い…。





「リッ…」

「後は来月のお楽しみな」

「それって…」



来月も二人でいようってこと。口には出さなかったが僕を見る視線がそう言っていた。
これからもよろしくな、と笑った顔はフルコースを目前にした時よりも綺麗な笑顔だった。

…リッドには適わないな。









恋色は二人色





(リッド、この後はどうする、)

(デザート全種類制覇)

(…適わないよ、やっぱり)









end
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