宝物

□情愛
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(小さい頃はドジで泣き虫だったキールをいつもこうやって引っ張って歩いてた気がすっけど…)

少なくとも再開してからは、幼馴染みとはいえお互いにそれなりの年齢なのだし、男なのだから、昔を懐かしむよりも、気恥ずかしさやプライドの方が勝っていた気がする。
それでもお互いに意識し合っていたのも事実だ。
しかし、それはほとんどの場合素直になれず、意見の衝突という形で表現されてきた。

その感情が旅を続けていく内に微妙に変わり始めてきたのは、いつだったか…――


「…寒い…っ」

毛布の中でうずくまっていたキールの身体がガタガタと震え出したのを見て、リッドははっと意識を戻した。

やはり熱が上がったせいだろう。
そこには先程よりも幾分か苦しそうに咳をしながら、「寒い」と繰り返すキールの姿があった。

リッドは急いで側に纏めておいた木の枝の何本かをさらに火にくべた。
炎の勢いが増して冷え込んでいた空気が少しだけ和らぐ。
しかし、それも今のキールには気休め程度にしかならないだろう。
夜の冷気に加え冷たい土の上で過ごす一晩は、病人には辛いものがある。

「まだしんどいか…?」

汗で張り付いたキールの前髪を空いたもう一つの手でそっとすくってやれば、うっすらと開いたダークブルーの瞳と目があった。

「すまな、い…リッド…」

咳き込みながら掠れた声で名前を呼ばれ、リッドはしばらく考えてから繋いでいた手を離した。

不思議そうに、そして少し残念そうな表情を浮かべたキールが働かない頭でリッドの行動を見つめていた。
しかし、リッドの次の行動はキールの予想とはかなりかけ離れたものとなる。

リッドがキールを包んでいた毛布を掴んでひったくったせいだ。

「…ひっ、寒いっ…、お前、何するんだ…!」

突然のリッドの行動にわけもわからずに泣きそうな声を上げるキール。
リッドは「大丈夫だって」と呟いて、キールと自分の分の毛布を合わせ、キールのすぐ隣りへと身を寄せてきた。

「…!!」

キールは現状を把握するまでにしばらくの時間がかかった。

(だって、リッドが……ぼくを、抱き締めてる…?)

背中に回されたリッドの腕がしっかりとキールの身体を包み込む。
その上から2人分の毛布で隙間なく覆われた。

「…リッド?」
「こうすりゃあったかいだろ?」

至近距離でリッドが笑う。
目があってキールの心臓がドクンと跳ねた。
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