宝物

□情愛
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「大丈夫かよ?キール」
「げほ…っ、…ああ、問題ないよ…」

いや…問題大有りだろ、とリッドは心の中で呟いて、先程から隣りで苦しげに眉を寄せ咳き込んでいる幼馴染の顔を覗いて溜め息を吐いた。

昼間からキールの様子がどうもおかしいとは思っていた。
道を進む際でもいつもよりも疲れるのが早く、少し歩いてはすぐにへたりこんでいたからだ。
その時は、どうせ昨夜遅くまで本でも読んでたんだろう、とさして気にも留めなかったが。
それが夕方になり野宿をするという頃になり、キールの具合が悪いという事が発覚したのだ。
当人の問題ではあるが、仲間の体調の変化にすぐに気付いてやれなかった事をリッドは後悔した。

次の町まではまだ少し距離がある。
陽はとうに沈んでおり、今は夜中と呼べる時間帯だ。
もし、今から歩いたとして今日中に町に入れる確率は限り無く低い。
そうなれば、必然的にこの場で一晩を過ごす訳になるのだが。
当然、医者なんているはずもないこんな森の中で、予期せぬ事態にリッドはどうしたもんかと、頭を掻いた。

ふいにリッドは仲間の方に目をやると、そこにはすやすやと寝入っているファラとメルディの寝顔があった。
始めの内はキールの症状を心配して寝付けない様子の2人だったが、リッドがキールの看病を買って出たため、ようやく眠りについたようだ。

リッドは適当にその辺にあった小枝を焚き火の中に放り込んだ。
耳届くのは風に揺らぐ木の葉が擦れる音とパチパチとはぜる焚き火の音。そして普段よりも少し速めのキールの呼吸音だけだ。

「熱、上がってきたかな…」

毛布にくるまりながら苦しげに呼吸を繰り返すキール。
リッドは自分の額と相手のそれに掌を当てて温度を確かめようとした。

「っ…」

リッドの手が額に触れた瞬間、キールはビクリと身を震わせた。
キールが嫌がったのかと思い手を引っ込めようとすれば、逆に掴まれた。
何事かと思ってリッドが自分の握られた手を見ていると、キールの方も咄嗟の行動だったのだろう。
自分のしでかした事に「しまった」という表情をして気まずそうに顔を背けてしまう。
その頬には熱のものとは違う赤みが交じっていた。

「…どうしたんだよ?」

何も言おうとしないキールにリッドは苦笑した。
先程よりも強く、それでいてまるで縋る様に握られた手を、リッドはそれと同じくらいの力でしっかりと握り返してやる。

そういえば…と、リッドは昔似た感覚があったのを思い出した。

――こんな風に手をつなぐのはいつぶりだろうか。
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