KxR

□猫
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「お前と一緒にいるのは……何でだろうな、飽きねぇよ」

腕を伸ばしてベッドの下に寝そべっているキールの頭の撫でてやる。
喉を擽ってやれば気持ち良さそうに目を細めた。

「お前、素っ気ないし、本の上でじっとしてばっかだけどさ」

そうも付け加えれば、キールは楽しそうに鳴き声をあげた。


“本の上”どうやらそこがキールの定位置らしい。
リッドに読書をする習慣は無い。
その為、彼の部屋に本が存在する事自体が珍しいが、それはたまたま友人から譲り受けたものだ。
しかし、実際は大したページも読み進める事が出来ずに、ベッドの下に放置されてしまっている。
キールはどうやらそれを気に入ったらしい。

ゴロゴロと喉を鳴らしながら、リッドの優しい手を堪能していたキールが、ふいに一つ欠伸をした。
今まで居座っていた本の上から退き、リッドが座るベッドの上まで飛び乗った。
そして、ゆったりとした動きでリッドの膝に登ってくる。
そこは気紛れにキールが選ぶ、二番目にお気に入りの場所だ。
甘えた様にすり寄ってくる小さな身体を指であやしてやりながら、リッドは珍しい事もあるもんだな、と心の中で呟いた。
と、その指に軽く噛み付かれた。
突然の指先の刺激にリッドが顔をしかめると、今度はチロチロと小さな舌で舐められる。

「なんか…今日はやけに甘えるんだな?」

猫が気紛れなのは知ってはいるが、この180度手の平をひっくり返した様な甘えっぷり。
流石に妙に思って首を傾げれば、キールは何やら含んだ様な笑みを浮かべ「にゃあ」と鳴いた。

ひとしきり舐め終えて満足したのか、キールは銜えていたリッドの指を解放した。
そして、今度は自分の毛繕いを始める。
その様子をしばらく眺めていたリッドだったが、次第に眠気が襲ってくる。

「そろそろ寝よっかな…」

くあ、と欠伸をかみ殺しながらの呟きを聞いて、キールは彼の膝の上から退く。
リッドが布団に潜るとキールもそれに倣ってその隣りで丸くなった。
眠たい目を擦りながら、リッドは傍にあるキールの顔を覗いた。
一瞬目が合って、すぐにプイと逸らされた。

(ホント、可愛くねーの)

そう思いながらも、その猫に対する優しい感情が生まれてきている事も彼は知っている。

「おやすみ…キール」

半分夢心地でリッドがそう呟けば、同じ様に優しい声が返ってきた…ような気がした。



end.
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