KxR

□猫
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―――猫を拾った。

梅雨入りした不安定な天気が続く中、その日は特に雨が酷かった。
一人街外れを歩いていた彼の耳に届いたそれは、偶然だったのだろうか。
きっと捨て猫だろう。彼は直感でそう思った。
雨音にかき消されそうな程に弱々しいその鳴き声を頼りに、彼は近くの茂みを掻き分けてみれば、それはいた。
青みがかったさらさらとした毛並みと、ダークブルーの少し無愛想な瞳が特徴的な猫だった。

今まで動物を飼った経験はない。
だからといって別に動物嫌いという訳ではない。
どちらかと言えば『好き』の部類には入るのだとは思う。
ただ、それをする機会が今まで無かっただけだ。
また、そこまで動物が飼いたいと思った事も無かった。
そんな彼がその猫に手を差し伸べてしまったのは、ほぼ無意識だった。
雨に体温を奪われたその小さな身体を縮めて、ブルブルと震える姿に、何か思う所があったせいかもしれない。

「オレの家に来るか?」

初めて交わった筈の視線は、不思議と懐かしい感じがした―――。



彼…リッドがその猫、キールを拾ってから一週間が過ぎた。

「毎日毎日、よく飽きねぇなあ〜」

リッドは窓の外を眺めて溜め息を吐いた。
そこにあるのは、あの日と同じように降りしきる雨音だけだ。
連日続くこの雨が止んで、青い空が顔を出してくれればいいのに、とリッドは思う。
暖かい太陽の下で、寝転びながら空を眺める。
果たしてこれ以上の幸せはあるだろうか。
早くその気分を味わいたいくて、リッドはなかなかに意地の悪い天気を恨めしそうな目で見上げた。
しかし、いくら不満を表してみた所で相手は自然の恵みなのだ。どうしようもない。
この状況に飽きているのは自分の方だと、リッドは心の中で苦笑する。
そして、何をする訳でもなく寝そべっていたベッドから身を起こした。

「キール」

自分の名を呼ぶその声にピクリと耳を少しだけ動かした、彼の同居人…猫のキール。
同じ空間にいながらこちらも自分の世界を満喫していた。
過剰に干渉し合う事もないが、決してそれは不仲という訳ではない。
例えるなら、お互いが空気の様な存在になってきた、という所だろうか。
もちろん初めは突然の環境の変化から、ストレスの溜まったキールに引っ掻かれる、なんて事もあったが。
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