KxR
□寒暖
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「うぅー…さっみぃ〜っ」
ガレット地区のアイスウルフの討伐に出掛けたキールとリッドとファラの3人。
依頼自体は特に問題なく片がついたものの、帰り道で雲行きが怪しくなり吹雪いてきてしまった。
「早く早く」と2人を急かしながら前を歩いていたファラともはぐれてしまい、キールとリッドはその場に取り残されてしまった。
こういう時は無駄に動かない方がいいというキールの提案から、雪が凌げそうな大きな木の下で天候が回復するのを待つ事にした。
寒い寒いと騒ぐリッドの声は、次第に勢いを増す雪に虚しく書き消されていく。
「全く…。雪国へ行くと言っておいたのに、そんな薄着なお前が悪いんだろ」
「そんな事言ったってよ〜、まさかここまで寒みー所だとは思わなかったんだよ。…なぁ、キール」
ガタガタ震えながらリッドが恨めしそうに見つめる視線の先には、キールが羽織っている少し大きめだが暖かそうなコート。
ソレ貸してくれよ、と言わんばかりの視線を受けてキールは眉をしかめた。
「嫌だよ、それじゃ今度はぼくが寒いじゃないか」
途端になんだよーっ、と不満そうな声を漏らすリッドに、キールは溜め息をついた。
「全く、しょうがないヤツだな。ホラ、こっちに来いよ」
コートの裾を持って広げながらキールが言う。
その光景に思わず顔が引きつるリッド。
「お前、それ…何かの冗談か?」
だが、目の前には至って真剣なキールの顔がある。
彼が冗談なんて言わない事は今までの経験から分かりきっている。
「これが冗談に見えるのか?…嫌なら別に入らなくていいんだぞ」
「や、入るけどよ。ただ、お前が真顔でそーゆー事言うから、なんか不気味でよ…」
「文句があるなら後で聞くから、早くしろ。…ぼくだって寒いんだ」
開けたままのコートの前から冷たい風が入ってきて顔をしかめるキール。
(オレで暖とりたかったって訳かよ。まぁ、いいんだけどさ)
そうとなれば遠慮なく、そのぬくぬくとしたコートの中に潜り込み、冷えた身体を暖め始めるリッド。
「…あー、あったけぇ〜」
「………」
背中を預ける様な体勢でグイグイと身を寄せてくるリッドに、キールは少しばかりの動揺を覚える。
確かにこうしている方が暖かいのだが、あらぬ感情まで抱いてしまいそうで困る。
「おい、あんまりくっつくなよ…」
「かてー事言うなって。大体、お前が入れって言ってきたんだろ?」
ちゃんと責任持てよな、そう言って軽く笑うリッドにキールは深く溜め息をついた。
「…分かった。ちゃんと責任とるよ」
彼が前を向いていてくれて本当に良かった、とキールは思った。
自分のこんな顔は到底見せられない。
目の前に広がる、見た目よりやわらかな髪にそっと顔を埋めてみる。
「?、何してんだよ?」
リッドの疑問にもキールはそのまま動かず答えない。
リッドもこの状態が別に不快ではないから好きにさせている。
「変なヤツだな…。あ、キール!空、見てみろよ。止みそうだぞ」
もう少しこうしていたいと想い始めたキールだったがそううまくはいかないようだ。
まぁ、こんな所でいつまでも足止めを食っていたいとは思わないが。
「そうだな…。船に戻ろう。早くしないと…多分、先に戻ってるファラに叱られる」
「…そーだなー」
げんなりした顔でリッドが呟く。
怒りのマークを顔中に浮かべたファラの顔が目に浮かんできそうだ。
ファラだけではない。
おそらく他のメンバーにも心配をかけているだろう。
「早く帰ろーぜ。オレ、腹へった」
スッと立ち上がり、地面に座り込んでいるキールに手を差し延べながらリッドが言う。
そして、その手を取ってキールも立ち上がる。
「そうだな。帰ったら何か…暖かいスープでもパニールに頼むか」
そうして、ようやく2人は帰り地につく。
握った手はそのままにして。
end.