KxR

□手紙
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 ――リッド、元気でやっているか?
お前の事だ。毎日飽きもせず空ばかり眺めては、その日必要な分だけ狩りをするという、旅を始める前となんら変わらない生活を送っているんだろうが…。
ファラは元気か?
ぼくは今アイメンにいる。メルディも一緒だ。
あの後、ぼくとメルディはセレスティアに飛ばされた。
メルディや生き残った町の人達と一緒に復興作業に追われる毎日だ。
建設物にはぼくのアイデアも導入され、前よりも素晴らしい町へと変貌を遂げている。
早く復興した町並みを見せてやって、驚くお前の顔が見たいよ。
本当に、…その日が訪れる事を心待ちにしている。

早くお前達に会いたい。会って話したい事がたくさんあるんだ。
今までの事や、これからの事…。二つの世界をどの様にしていくか等、問題は山のように………いや、違うな。
本当は…、

お前の顔が見たい…声が聞きたい。
お前に会って、触れて、抱き締めて、早く安心したいんだ。
遠く離れてみて、初めてこんなにもぼくの中でお前の存在が大きいものだったのだと想い知った。
リッド、お前は今何をしている…?
本当に一秒でも早く、お前に会いたい。
お前もぼくと同じ気持ちでいてくれたら嬉しいが…。

リッド、好きだよ――…


……





「……何をやってるんだ、ぼくは………」

現実に返って、紙の上にペンを滑らす手を止めた。
手紙としては不格好に側面部分が破かれたそれは、普段自分がメモ書きするのに使用しているノートを千切ったものだ。

馬鹿馬鹿しい。二つの世界を繋ぐ遠征の橋が無くなった今、どのみちこの手紙が相手に届く事はないんだ。
くしゃり、と丸められたそれを地面に投げ捨てようとして、身体が動作をを止めてしまう。あの、大量の、地面上でごちゃごちゃになったものとこの手の中のものが同じになるのか、と考えたせいかもしれない。
ぐしゃぐしゃになった紙の中に書かれた文字は紛れもない真実だ。だが、これを放ることでそれはゴミと化す。

インフェリアとセレスティアが分断してから必死で行動してきた自分にとって、これまでの時間はあっという間だった気がする。だが、本当は大分時間が経っているのかもしれない。
時にはリッドに会いたくて、欲しくて堪らない夜もあった。
その時の感情を思い起こすと、この手紙を簡単に捨ててしまうには躊躇われた。
ぐしゃぐしゃの手紙をもう一度机の上に戻し丁寧に平げる。綺麗に畳み直したそれを机の上に無造作に置かれてあった一冊の分厚い本の中に挟んだ。それを本棚に戻して、自分のベッドへと移動する。

今夜もまた、リッドの夢を見られる事を願って、布団の中へと潜った。



end.


2012.3.11

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