KxR

□Valentineday kiss.
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《マイソロ設定。
付き合っている前提です》

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「なぁ、キール」
「……なんだ?」

机に向かって気難しい顔をしているキールに後ろから声がかけられた。
考えが纏まらないのか、どこか上の空で返事を返すキール。その視線は机の上一面に広がった膨大な書類に注がれたまま。

「今日って、バレンタインだろ」
「…それで?」
「くれねぇの?」

そこでようやくキールの視線が卓上の紙から声の主へと向いた。
そこには忙しなく神経を張り巡らせているキールとは対照的にゆったりとソファーで寛ぐリッドの姿。
彼の周りには、今日一日船の中を回って獲得したらしき戦利品が所狭しと敷き詰められていた。
色とりどりの包み紙に綺麗にラッピングされた数々の箱。
この船バンエルティア号の船員…主に女性陣から受け取ったものだ。

その中身であるチョコやクッキーなどのお菓子類の一部はすでに食べ終え、「腹が膨れないものに興味はない」と自ら公言するリッドにとってはもはや意味を成さない、リボンや包み紙などが散らばっていた。

今日は俗に言うバレンタインデー――好きな人やお世話になっている人にチョコレートを渡し想いを伝える日だ。

女の子同士でお菓子を交換したり、男の子達も対しては義理チョコを配るなどと、バンエルティア号の女の子達も例に漏れず、このイベントを楽しんでいた。

食べるのが大好きなリッドにとって、まるで天国の様な日だ。黙っていても勝手にお菓子が舞い込んでくるのだ。


ガサガサと耳障りな音が聞こえてきて眉をしかめるキール。その手元に視線をやれば、可愛らしい包装紙に包まれた小箱を些か乱雑な手付きで破いていた。
訝しげに眉を寄せたキールが溜め息を一つ。

キール自身甘いものは嫌いではない。
だが、リッドの胃袋に納められたであろう残骸を見ていると、なんだか胸がムカムカしてくる。
が、むかつきの原因はそれだけではない。
女性達から貰ったチョコレートを嬉しそうに食べるリッドに、言い様のない苛つきを感じたのは多分そのせいだ。


「お前はもう十分貰っている筈だろ。それでもまだ満足できないなんて言うつもりじゃないだろうな?」

底知れないリッドの食欲にキールは呆れた様に肩をすくめた。

「そうじゃねぇって。…だって、今日は好きな人に想いを伝える日なんだろ?」

照れた様に視線を逸らすリッド。
それを聞いてキールは、目を丸くした。
リッドが食べ物以外の事、ましてやバレンタインデーなんてイベントに興味を持っているなんて思ってもみなかったからだ。

じんわりと胸を熱くさせるキール。さっきまで感じていた嫉妬心は驚くほどすんなり消え失せていた。

だが、しかし、問題が一つ。ここ最近ずっと部屋へ籠り勉学に勤しんできたキールはチョコレートの用意などしていなかった。今日がバレンタインだと知ったのも、先程食事に訪れた食堂で甘い香りが立ち込めているので初めて知ったのだ。
キール自身も女性陣から貰ったチョコレートも幾つかあるが、まさかそれを渡す訳にはいかない。
どうしたもんかと少し悩んだ素振りを見せた後、ふと思い出したように机の引き出しを探った。

「手持ちはこんなものしかないが…、これで構わないか?」

取り出したのはキールが勉強などの際に眠気覚ましに舐めているミント味の飴だった。

「お、サンキュ」

早速それを口の中に放り込むリッド。
コロコロと美味しそうな音が響く。

「…それで、ぼくに対して…はないのか?」

今度はリッドが少し悩んで。それから。

「じゃ、これで…な」

ぐい、と腕を強い力で引っ張られ、キールはリッドの上に覆い被さる形になる。

「リッ…――」

唇に柔らかい感触があって、口の中に爽やかな風味が広がった。
さっきリッドに渡したばかりの飴が、キールの口の中に納められている。

甘ったるい香りの中、口直しにはちょうどいい、と熔けた頭で思った。



end.




Happy Valentine!

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