NL部屋

□あたたかなおもい
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「クィッキー、待ってよ〜!どこ行くか〜?」
「クキュッ、クキュッ!」
少女が足を踏み出す度に深くなる葉が擦れる音、スカートを揺らす風の
音。木々の合間から差し込む光が反射してキラキラと辺りを照らしていた。
一定のリズムを保ちながら駆けていく二つの楽しげな足音が重なる。

走り疲れた足音が止み、息を切らしながら、やがて開けた場所へと辿り着く。
木々を抜けたその先には、一面に咲く野花が広がっていた。
思わず感嘆の声を上げた少女−−メルディの傍らでは、彼女の小さな相棒であるクィッキーが上機嫌に跳ね回っていた。
風に髪をそよがせながら、しばしの間風景に見とれるメルディ。その周りをぐるぐると回っていたクィッキーが、何かを感じ取ったのかピクリと耳を動かし、一鳴きするとそのまま駆け出した。
「…………あ!」
再びクィッキーを追って走り出したメルディがそれに気付いて小さく声を上げるのと、草花の影に埋もれている、その存在がもぞり、と動き出したのはほぼ同時だった。
「んおっ?な、なんだっ……?クィッキー……?」
「リッド!」
ようやく追い付いたメルディが見た光景とは、ふさふさの尻尾に顔面を覆われて、慌てふためく仲間の姿だった。
「……メルディ?なんでここに……」
何事かと飛び起きて、メルディの存在を認めたリッドが呆然と見上げてくる。
どうやら寝起きだったらしい。無理矢理眠りの世界から呼び覚まされたリッドの髪は飛び付かれたせいかあちこちに跳ね、まだ眠そうな眼を何度も瞬きさせている。
「う、ん……と。メルディ、クィッキーとな、散歩してたら、ここに着いたよ」
困惑した表情を浮かべるのはお互い様で、それでもすぐにメルディはぱっと瞳を輝かせた。
「すごいな!リッド!お花、いっぱいよ!」
両手を広げて喜びを現すメルディに、自然とリッドの頬も緩む。
「だろ?オレも驚いたぜ。昼寝にもってこいの場所だと思ったんだけど……まさか、クィッキーが体当たりしてくるとはなぁ」
「あははっ、リッドごめんな〜」
悪びれずメルディが笑う。昼寝の邪魔をされたというのに、何故か悪い気はしなかった。
「さて、と。腹も減ってきたし、帰るか」
「う〜ん……だけど、今日はファラが食事当番。おみやげ持って帰るよ」
そう言うとメルディはしゃがみこみ綺麗そうな花を選んでは手折っていく。
「……何すんだ?」
「ファラがために花冠作るよ。リッドも手伝って欲しいな」
「えぇ〜、いいだろ、ファラのことだからそれだけで十分喜ぶって」
男が花冠作りって、とリッドの表情が曇る。メルディの手元にどんどん増えていく花を眺めながら、どうにかこの状況から逃げ出そうと頭を捻る。
「だーめ!こっちの方がゼッタイいいな!……な、リッド?」
じっと上目づかいに見つめられてとうとうリッドは折れた。
「……しょーがねぇなぁ〜……さっさと終わらして帰るぞ」
「ありがとな!リッド」
温かな笑顔を見せてお礼を述べるメルディの傍らで、彼女の小さな相棒もまた楽しげな鳴き声を上げた。

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