PxL
□おもいでとなる
1ページ/3ページ
――そして、時は来た。
「陛下…いってきます」
やっとの思いで出したであろうその言葉には、子供が抱くあらゆる感情が込められている気がした。
ピオニーはうつむいているルークの顔を上げさせて、その瞳を覗き込む。
「………」
「………」
何も言葉が出て来ない。
行くな、とも。
行って来い、とも。
その代わりにピオニーはルークの身体を思い切り抱き締めた。
このまま閉じ込めてしまうかのように。
そうできればいいのに。
そんな己の醜い感情をルークに悟られないように、ピオニーは心の中で嘲笑った。
「陛下…っ」
苦しかったのか、腕の中のルークが身動いだ。
「ん?」
力を少し緩めるとルークが腕を伸ばしてきて、ピオニーの背へと回した。
「俺、もっと…陛下と一緒にいたかった…」
ピオニーの肩口に顔を埋めたまま、ポツリと呟くルーク。
ピオニーは黙ってそれに耳を傾けた。
「一度、一緒にケテルブルクへ行ってみたかったです。それで、スパに行ったり、陛下が子供の頃、好きだった場所とか案内してもらったりして…」
言い様のない感情がピオニーの心に渦巻く。
「なんだ、そんな事か。この問題が片付けば、俺も休暇が取れるらしいからな。そうすりゃ、いつでもいけるぞ」
だから、
「必ず、帰って来い…!」
待ってる。
その言葉にルークは困った様な顔で、何かを言いかけて止めた。
それでも嬉しそうに笑い、その腕から離れていった。
その後ろ姿をピオニーは、ただ見送るしかなかった。
* * *
そうして、エルドラント上空に光の柱が立ち上り、兵達は歓声を上げた。
その後、ジェイドから全ての報告を受けた。
ジェイドの報告に嘘がない事など、分かりきっている。
それでも、
決して想い出になんかさせない。
まだ全てが終わった訳ではないのだから。