Short

□眠れないままのあの子
1ページ/1ページ


昨日の自分と今日の自分は同じ延長線上にあるのに、ちょっとだけ違う。見える景色や、感じ方も。昨日は嫌で嫌でしょうがなかった人が、今日はそうでもなかったり。明日はまた嫌いになってるかもしれない。そういう人間のはっきりしていない、軽い部分を自分の中に見つけるたびにため息をついていた。何かに左右されることのない人で居たいと思う。




「うわ、すげえ顔」
「・・・寝てないの」
「へえ。なんかあった?」


深夜二時過ぎ。いきなり届いたメールには簡素な一文。「起きてる?」うん、と返せば「今から行く」との返信。最初から眠気もなく、ただ部屋で音楽を垂れ流していただけだったので、まあいいか。と考えた。とりあえず、立ち上がりお湯だけ沸かしておく。一応客人が来るので、そういう準備だけは。けれど開口一番、目の下の隈をあざ笑うような客人だとは思わなかった。


「なんも。しいて言うならなんもなさすぎる」
「おじゃまします。 ・・・うわ」
「ん?」
「何聞いてたの?音でかすぎでしょ」


第二の家かと思うくらい彼はさくさく私の家に上がる。すぐさまリビングのいつも座る場所に腰かけ、しかめ面。視線の先には、最近お気に入りのヘッドホンがあった。じゃかじゃかとヘッドホンから聞こえる音の大きさに、「こんなの聞いてるから眠れないんだって」と 結構真面目な顔で言われてしまった。沸騰した薬缶の火を止めてから、音楽も止める。ヘッドホンで聞いている分には心地いい音量でも、離してみるとなかなかに大きかった。次から少し小さめにしよう。和也もわたしがヘッドホンの音の大きさに驚いたのが分かったらしく半笑いで「な?絶対耳悪くなる」と。優しいところもあるじゃないかと思えば、いきなりキッチンを指して「お湯沸いたんじゃないの」。わざとらしくため息をついてキッチンへ向かえば押し殺したような笑い声が聞こえてわたしも少しだけ笑ってしまった。


「はい」
「ん。サンキュー」
「今日、仕事終わり?」
「まあ。・・・俺もなんか家帰る気しなくて」


湯気を立ち上らせるマグカップを渡して、彼の隣に座る。テーブルの上にあった自分の分のマグカップに口をつけた。静かにコーヒーを飲む彼の横顔に視線を向けると、前にあった時よりも疲労の色が見えた。それを見てなんとなく、思い上がりも甚だしいと言われてしまうのかもしれないけれど自分の中では確固たる確信として感じられるものがあった。和也がどうしてここに来てくれたのか。会いたかったから、酷似しているようで違う。心配だったり好きだったり。そういう純粋で揺るがない気持ちが見えるような。言葉にしたら軽くなるし、声に出したらもっと軽くなる。でもその気持ちは心の中で何度も反芻するだけならいつまで経ったとしてもきらきら輝いて、そしてそれを見つめる私の気持ちも変わらないのだろう。









090404 タイトルは約30の嘘さま

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ